大企業のソフトウェア人材育成と中小企業のDXが同時に進む方法:製造IT導入事例(2/2 ページ)
中小企業で、副業や業務委託ではない「プロボノ」の活用が広がろうとしている。これが中小企業のDX推進だけでなく、大企業のリスキリングにもつながる可能性を秘めている。
完成したものは
タケダ 社長の藤川氏は「現場に入って従業員目線で一緒に取り組んでもらえたことに感銘を受けた」と振り返る。ブートキャンプコースでデンソーのチームがタケダ向けに作り上げたのは、「nippo(ニッポ)」というプロダクトだ。
ニッポは、各工程の作業実績を簡単かつタイムリーに把握したい生産管理部と製造部向けに、タブレット端末上で入力可能なアプリケーションだ。従来の紙ベースの日報とは異なり手入力がほとんどなく、入力値をチェックしてデータの不整合を防ぐとともに、データベースに直接保存して変換処理を不要にした点が特徴だ。
タケダの社内では、プレスや組み立て、溶接の作業記録を、作業者が紙に記入していた。これを生産管理部の担当者がOCR(光学的文字認識)で読み取り、エラーチェックをした上で製造部に修正を依頼。製造部が修正した内容を基に、RPA(Robotic Process Automation)でレポートを作成、配信していた。AI(人工知能)を使ったOCRや、RPAによる情報展開で作業工数を減らしていたものの、時間管理の正確さなど複数の課題が残っていた。
レポート作成は1日に130〜150枚、OCRチェックに1日40〜50分を要するなど、工数がかかっていた。翌日にまとめて日報が処理されるため作業進捗が分かるのは翌日で、欲しい粒度のデータを必要なタイミングで参照することができなかった。異常発生時には生産管理部が現場に行かなければ状況を把握するのは難しく、生産計画の改修にも手間が発生していた。また、日報から分かるのは設備の稼働状況のみで、それ以上の分析ができておらず経営判断に生かせていなかった。
製造部としても、正しい情報を入力できているか不安を抱えており、情報の修正に手間がかかることから簡単に正確な情報を入力したいという希望があった。
ニッポは、管理者が入力する作業予定の一覧性、作業情報の入力しやすさ、情報の共有しやすさを重視した。これまでレポートは社内に広く配信されておらず、必要とする担当者が見たいときに参照する扱いとなっていたため、自動で処理して開かれた情報として会社全体に配信できるようにした。
ニッポはタケダの作業フローである前段取り(生産準備)、生産、後段取り(片付け)の3つに合わせて、タブレット端末の限られた画面サイズを生かした1フェーズ1画面のシンプルなインタフェースとした。作業フローに合わせてタイマーを表示する機能も盛り込んだ。これにより、タイマーを見に行く手間を惜しまず正確な時間を報告することができるとしている。タケダはニッポを試作版と位置付け、本格的な作業記録のデジタル化に向けた活動を進めていく。
エンドユーザーの声を聞く場である週2回のフィードバックでは、さまざまな意見が寄せられた。時には正反対の意見も含まれており、優先順位をつけるために重要度や必要性を整理しながら開発を進めたという。ブートキャンプコースの“卒業生”は、所属元に戻ってからソフトウェアについて教える側に回ることでさらにスキルアップを図る。
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