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Simulation Governanceの背景と成り立ちシミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(1)(3/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第1回は、CAE活用レベルのデジタル化3段階の解説と、Simulation Governanceという用語の成り立ちを紹介する。

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第3段階:CAEのDigital Transformation

 「手戻りをいかに削減するか」という課題を解決するには、設計プロセスの中でのCAEの活用の仕方を根本的に変革していく必要があります。具体的には、設計データ自体を紙からデジタルへと移行し、CAEデータと実験データも含めたオールデジタルデータをプラットフォーム上でつなぎ、情報をリアルタイムに更新していくという運用に転換していくことが求められます。業務そのものをデジタルのメリットをフル活用したやり方に変革する必要があるのです。

 設計探索やロバスト設計を設計開発の早期に適用できれば、設計の品質もスピードも各段に向上します。そうした技術を適用できない領域がまだあるにせよ、最低限実施できる仕組みがあります。設計最上流の要求と、シミュレーションによる予測と実験の検証を総合的に管理する要求ベースの設計プロセス標準化です。

 この仕組みができれば、設計レビューを全てデジタルで、その時点での最新データで随時行うことが可能になります。設計責任者は、的確な情報に基づいて、的確な判断を下すことができるわけです。CAE主導型の設計プロセスの原型、フロントローディングの出発点ともいえます。

 全ての情報をDigitizationして、解析業務のプロセスをDigitalizationし、仕事のやり方を根本的に改革するためには、情報とモデルとプロセスがつながった“プラットフォーム”というシステムの上で仕事をすることが、唯一の方向性といえるでしょう。改革が不可欠なことから、この段階をDigital Transformation(DX)と呼びます。

 企業でCAEを使用している読者の皆さんは、自社の活用レベルがどのあたりかを考えてみましょう。筆者の経験的観測では、Digitization:Digitalization:Digital Transformation(DX)の実現比率は「7:2:1」あるいは「8:1.5:0.5」ぐらいかなと考えます。CAE活用がDXレベルに到達できている企業は、10分の1かそれ以下ではないかという実感です。

 ですから、「単にCAEを使っている」ということに安住してはいけないのです。まだまだ、その先があることを理解し、CAEだけを見るのではなく、設計業務や生産業務のデータをデジタル化し、仕事のプロセスをシステム化し、その中でCAEをフル活用する仕組みを考えなければ“真の活用”とはいえないのです。

Simulation Governanceという用語の成り立ち

 Wikipediaによれば、Simulation Governanceという用語が登場したのは、2011年とされており、当初は技術的な標準化といった趣であったようです。その後、2015〜2016年にかけて、国際CAE技術団体のNAFEMS(シミュレーションに関する総合的な情報共有、教育活動やイベントを行っているNPO)が開催した「Simulation 20/20:The Next 5」という一連のWebセミナーの中で、Simulation Governanceが3大テーマの1つとなったことで広く知れ渡るようになりました。NAFEMS会員限定ではありますが、(ネット検索でもヒットする)以下の公開論文に本質的なことが記載されていますので、会員になり、お読みなることをお勧めします。


 その当時、日本ではSimulation Governanceという用語をほとんど聞くことがありませんでしたし、今も“Simulation Governance”でネット検索すると、NAFEMS関連の情報か筆者のブログ、計算工学会の論文が上位にヒットしますので、日本のCAEかいわいではまだ認知されていないのではないかと推察します。

 本連載を執筆しようと考えた大きな動機は、Simulation Governanceという用語、コンセプト、その内容、重要性を日本のシミュレーション利用者層に広く認知してもらい、Simulation Governance視点での底上げを図ってほしいという強い思いによるものです。大いなる情熱を込めた本連載を通して、筆者の考えや思いを読者の皆さんと共有できれば幸いです。

 次回は「Simulation Governanceの全体像を俯瞰する」と題して、この大きなテーマの姿を大局的に眺めてみたいと思います。 (次回へ続く

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筆者プロフィール:

工藤 啓治(くどう けいじ)
ダッソー・システムズ株式会社
ラーニング・エクスペリエンス・シニア・エキスパート

スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、現在、ダッソー・システムズに所属する。39年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。


  • 学会活動:
    2006年から5年間、大阪大学 先端科学・イノベーション研究センター客員教授に就任し、「SDSI(System Design & System Integration) Cubic model」を考案し、日本学術振興会 第177委員会の主要成果物となる。その他、計算工学会、機械学会への論文多数
  • 情報発信:
    ダッソー・システムズ公式ブログ「デザインとシミュレーションを語る

筆者とのコンタクトを希望される方へ:
件名に「Simulation Governanceについて」と記載の上、keiji.kudo@3ds.comまで直接メールご連絡をお願いします。


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