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Simulation Governanceの背景と成り立ちシミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(1)(2/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第1回は、CAE活用レベルのデジタル化3段階の解説と、Simulation Governanceという用語の成り立ちを紹介する。

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CAE活用レベルのデジタル化3段階と現状

 「デジタル化」という言葉をよく耳にしますが、デジタル化には3段階のステップがあることをご存じでしょうか。一般的には、以下の3つに分けられます。

  1. Digitization:アナログデータのデジタル化
    • 例:データベース、Officeファイル、電子メール、デジタル画像、電子カルテ
  2. Digitalization:仕事の質と効率を改善
    • 例:グループウェア、ネット検索、Webツール、リモート会議システム
  3. Digital Transformation(DX):根本的な業務改革や新たなビジネス創出
    • 例:SNS、ネット通販/予約、電子決済、認識AI、生成AI、MaaS(Mobility as a Service)

 「Digitization(デジタイゼーション)」と「Digitalization(デジタライゼーション)」の違いについて意識している人は案外少ないかもしれません(かく言う筆者もそうでした)。

 Digitizationは、アナログデータのデジタル化だけの段階です。PCさえあれば実現できます。一方、Digitalizationは、仕事の質と効率を改善するレベルへ引き上げてくれます。例で示しているように、仕事や生活になくてはならないツールがあふれています。情報のやりとりが必要になるので、ネットとサーバが介在します。そして、昨今聞かない日はない「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション/DX)」は、根本的な業務改革や新たなビジネス創出が目的です。例に挙げたものは、もはやわれわれの生活に組み込まれた必要不可欠な仕組みになっています。

 さて、このデジタル化3段階をシミュレーション(CAE)に当てはめてみたらどうなるでしょうか。図1は「CAE活用レベルのデジタル化3段階」の概要を図示したものになります。

CAE活用レベルのデジタル化3段階
図1 CAE活用レベルのデジタル化3段階[クリックで拡大]

 以降で、それぞれの段階について補足いたします。

第1段階:CAEのDigitization

 CAEはそもそもデジタル化されているので、道具立てはたくさんそろっています。「試作物をモデルで再現し、実験をシミュレーションで検証する」というのが、CAEにおけるDigitizationになります。当たり前過ぎるので、あえてDigitizationと言うまでもないと思われるかもしれませんが、そこに落とし穴があります。

 “試作物を正しく再現し、実験を正しく検証しているか”という古くて永遠の課題は、“アナログ(リアル)世界からDigitizationが正しく行われているか”という問題そのものなのです。ブログ「デザインとシミュレーションを語る」の第81回「CAEと実験の相補的関係はまさにこのテーマを取り上げています。

 また、属人的で手作業が多い、いわば職人技を要するところもボトルネックの一つとなります。同ブログの第50回「計算品質を標準化する価値では、モデル化の難しさについて説明しています。

 Digitizationを行っているが故の、再現性、計算精度、標準化は永遠の課題ともいうべきものであり、いまだに利用者は四苦八苦しているのです。

 あらためて指摘したいのは、実のところ、大半のCAEの利用状況が、コンピュータでCAEソフトを使っているだけ/単にデジタル計算をしているだけの状態にとどまっており、かつ属人的で手作業が多いという点です。そうした傾向は、本連載のメインテーマであるSimulation Governanceの診断結果からも如実に示されることでしょう。

第2段階:CAEのDigitalization

 Digitalizationでは、Digitizationの課題であった属人化をなるべく排除するために、モデル作成の作業を標準化し、可能な限り自動化を促進します。結果として、利用者のスキルや作業レベルに依存せず、モデルとシミュレーションの品質が上がるだけでなく、作業効率も大幅に向上します。

 2010年代初頭、SPDM(当時はSLM:Simulation Lifecycle Management)が利用され始めたころは、まさにこうした活用事例が多く見られました。SPDMという仕組みのおかげで、プロセスを整理して標準化できるようになり、ワークフローの自動化やテンプレート化による再利用まで図れるようになります。また同時に、関連するファイルが実行プロセスにひも付けられるため、トレーサビリティーの確保が容易となる他、属性データが付加されることで再利用性、検索性が劇的に向上していきます。要するに、CAEの煩雑な作業がかなり整理されるのです。

 この段階でも、作業効率が20〜30%向上したり、検索スピードが90%ほどアップしたりなどの成果は出ますが、まだ「改革」と呼べる域にまでは達していません。早くて、便利で、整理された状態にはなっているかもしれませんが、仕事のやり方そのものは基本的に変わっていないからです。

 また、実際のところ、Digitalizationの段階(第2段階)に到達しているケース自体がそれほど多くはないということも、本連載の中で明らかになってきます。

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