CAEを設計者に使ってもらうには?:メカ設計 イベントレポート(3/3 ページ)
「CAEユニバーシティ特別公開フォーラム2023」に登壇したサイバネットシステムの栗崎彰氏の講演「DX時代のためのCAE教育方法変化論」の模様を取り上げる。
自動化がCAE教育の時間を劇的に減らす
このような設計のためのCAEの自動化の進展は、これまでのCAE教育の要素であり、設計者CAEの構成方程式である“材料力学+有限要素法+計算力学+ソフトウェア操作”の在り方を大きく変えようとしている。
これまでのCAE教育は、材料力学や有限要素法などの必須座学の習得とともに、計算力学やソフトウェア操作の習得に多くの時間を割いてきた。これに対し、これからのCAE教育は「材料力学と有限要素法は必須座学として、これまでと変わらずに取り組みつつ、時間がかかっていた計算力学とソフトウェア操作の習得を自動化によって効率化してしまう。今後はこのようなアプローチが必要だと考える。自動化は必然であり、徹底した自動化がCAE教育にかかる時間を劇的に減らしてくれる」(栗崎氏)。
CAE教育システムのグランドデザイン
さらに、栗崎氏は「CAEを単なるツールから、“企業戦略としてのCAE”へと昇華させるべきだ」と述べ、CAE教育システムのグランドデザインをしっかりと描くことの重要性を説く。また、座学の教育の様式に関しても、計画性のない散発的な教育や、座学を順番に学んでいくような教育でもない、“それぞれがどのように結び付き、どう絡んでいるのかが体系化され、自分で考える力が養われる教育”へのシフトが求められるという。
その実現方法として、栗崎氏は文部科学省が義務教育の指針として活用しているフレームワークをベースとする、CAE教育システムの全体像を紹介した。「設計者にどうなってほしいのか? 解析専任の部署が目指す方向性は何か? などから始まり、どのような重点施策を設けるかまで落とし込んでいく。そして、それを支えるものとして、教材、運用管理、認定の3つの柱が重要であり、それらを実現していく上で“デジタル化”が非常に大きなカギを握る」(栗崎氏)。デジタル化の推進により、オンデマンドによる学習コンテンツの活用、テスト結果(ユーザーの理解度)に基づく学習コンテンツのブラッシュアップなど、持続可能で拡張性と柔軟性のあるCAE教育システムを実現できる。
講演の最後、栗崎氏は総まとめとして「CAEはキャズムを越えていない。キャズムを越えてCAEが市民権を得るには“数”の力が必要だ。そのためには、設計でCAEを日常的に使っていく、CAEを設計プロセスに浸透させていくことが重要となる。そして、設計者にCAEを使ってもらうためには、設計の効率化や高度化に寄与するCAEでなければならない。これは逆算のCAEによって設計に必要とされる項目を見いだす必要がある。さらにCAEの自動化は必然であり、自動化を前提とした教育に取り組むべきだ。そのためにも、持続可能で拡張性、柔軟性のあるCAE教育システムのグランドデザインを確立することが重要となる」と述べ、講演を締めくくった。
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