カシオが設計者CAEによるフロントローディングで関数電卓の従来課題を解消:CAE最前線(1/4 ページ)
関数電卓の新機種開発において、カシオ計算機は設計者CAEによるフロントローディングを実践し、液晶パネル周りを補強する部品を、従来の金属から樹脂に置き換えることに成功した。
タフさが要求される関数電卓、カシオがとった対策と課題
一般的な電卓とは異なり、+−×÷の四則演算の他にも、複雑な関数の計算などが行える関数電卓。日本では理系の学生になじみのあるアイテムといえるが、STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育が進んでいる海外に目を向けてみると、中高生の授業の中でも関数電卓が広く活用されている。
そのため、関数電卓は国ごとの言語や教育要項にあわせて仕様が異なり、少量多品種の生産に対応できることが求められる。また、学生が日常的に使うアイテムであるため、落下や過度な圧力、ねじれなどに対するタフさも重要となる。
日本を含む世界各国で関数電卓を展開しているカシオ計算機(以下、カシオ)では、品質や耐久性に関して厳しい社内規定を設けており、さまざまな環境下での利用に耐え得る関数電卓を、各国ニーズや仕様に対応する形で提供している。
中でも、耐久性が求められる液晶(LCD)パネル周りの強度向上を目的に、カシオでは液晶パネルの裏面にインナープレート(あるいはLCDプレート)と呼ばれる金属製の補強板(アルミ製のパネル)を設け、落下や過度な加圧、ねじれなどに伴う液晶割れトラブルを防止する措置をとってきた。だが、同時にその対策は、部品コストや重量の増加、製造時の絶縁処理の手間といった課題を伴うものでもあった……。
こうした課題を受け、関数電卓を手掛ける設計室のメンバーからは「インナープレートの材質を金属ではなく樹脂に置き換えることはできないか?」といった声も上がっていたが、「樹脂では強度的に満足できそうにない」との理由から、従来機種には金属製の補強板が用いられてきた。
ちなみに、現在カシオが取り扱っている関数電卓のカテゴリーは、スタンダード関数電卓、プログラム関数電卓、グラフ関数電卓などが存在し、各国対応機種のベースとなるモデルの数は92機種(原稿執筆時点)にも上るという。また、モデルによっては乾電池を用いるバッテリータイプ、ソーラーパネル+ボタン電池の2wayタイプのバリエーションも存在している。
「できそうにない」をCAE技術で検証し、「できる」へ
本当にインナープレートの材質を樹脂に置き換えることは不可能なのか――。
約8年ぶりとなる関数電卓の新機種開発を機に、設計者CAEによるフロントローディングの実践によって長年の課題に挑戦したのが、カシオ 羽村技術センター 技術本部 機構開発統轄部 第二機構開発部 21開発室に所属する結城光司氏と江口裕紀氏だ。
現在、カシオでは全品目の製品開発において設計者CAEのアプローチを展開し、フロントローディングによるモノづくりを実践。これに並行して、設計者に対するCAE教育にも取り組んでおり、量産設計における必要な解析を設計者自身で行える体制を構築している。
結城氏は、全社における設計者CAEの水平展開の取り組みが本格化する少し前に、自ら希望して、もともと所属していた関数電卓などを手掛ける設計チームを一度離れ、設計者CAEの活動を推進するCAE技術開発グループへ異動。新たな所属先で、結城氏は静解析、非線形解析、落下解析などの解析スキルを学んだ後、あらためて、設計者として関数電卓の開発に携わっていた際に課題となっていた“インナープレートの樹脂化”の可能性について、CAE技術で事前検証を実施することにした。その結果、「従来機種で用いてきた金属製のインナープレートを樹脂に置き換えることで、さまざまなメリットが引き出せることが分かってきた」(結城氏)。
そして、改善の方向性のめどがついたタイミングで、ちょうど江口氏が関数電卓の新機種の設計を担当することになり、2人で協力して、樹脂製インナープレートを搭載した新機種の開発に取り組むこととなった。
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