北米市場でテスラのNACSの採用が拡大、CHAdeMOはどうする:和田憲一郎の電動化新時代!(49)(3/3 ページ)
北米でNACSを巡る動きが激しくなる中、日本発の急速充電規格CHAdeMOの推進団体であるCHAdeMO協議会は今後どのような考え方で進めようとしているのか。CHAdeMO協議会事務局長の丸田理氏、同広報部長の箱守知己氏にインタビューを行った。
NACS採用を表明したGMやフォード
和田氏 2023年6月上旬にフォードやGMがこれまでのCCS規格からNACS規格へ変更することを公表した。これについてはどう思っているか、またCHAdeMO陣営としてはどう対応するつもりか。
丸田氏 フォード、GMの動きについては、ニュースで知った状況であり、事前から察知していた訳ではない。CHAdeMO協議会の出張者が北米を周った時も、CCS充電器はかなり故障しており、充電場所を探すのに苦労したと聞いている。おそらく補助金を目的として数多く設置したものの、メンテナンスにはあまり注意を払ってこなかったからではないか。CHAdeMO陣営としては、「充電規格はユーザーの要望と自動車メーカーの戦略で基本的には決まる」と考えており、CHAdeMOとして北米で何かをする予定はない。
和田氏 これに関連して、欧州では「少なくともCCS規格充電器を設置」との縛りがある。北米でCCS規格に対して不安感が増えたことで、欧州はどうなると考えているか。
丸田氏 欧州ではCCSとCHAdeMOを備えたダブルアームの急速充電器が多い。今回の騒動を受けても、既に欧州委員会で「少なくともCCS規格充電器を設置」と定まっており、この方針が覆らない限り、「CCS陣営では行けるところまで行くのではないか」と思われる。
東南アジアでの充電規格の普及状況
和田氏 東南アジア(タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどのASEAN諸国)ではどうか。中国をはじめ海外EVメーカーがタイ、ベトナム、インドネシアなどに入ってきていると聞いている。
箱守氏 最近マレーシアやインドネシアを訪問した。充電器には、普通充電器のAC(Type2)、急速充電器はCHAdeMOとCCS2(欧州向け)の3本出しが多かった。シンガポールではCCS規格に対応との報道があるものの、多くの国では法規も定まっておらず、各自動車メーカーは自社に適した規格を推奨しているようだ。まだEVが少ないこともあり、本格的な議論はもう少し先になるように思われる。
CHAdeMO陣営としては、インドネシアの国立研究機関との二輪車の電動化に向けた規格への協力や、マレーシアの工科系国立大学とのV2X規格、VPP(バーチャルパワープラント)の実用化に向けて連携を図っている。
取材を終えて
フォードやGMがCCS規格からNACS規格に変更することを公表したことで、さぞやCHAdeMO陣営も動揺しているのかと思っていたが、意外に淡々としている。文中にもあるが「充電規格はユーザーの要望や自動車メーカーの戦略で基本的には決まる」と考えており、急速充電規格を作り、維持/管理する団体としての姿勢だろうか。その意味では、自動車メーカーや充電インフラ企業の立場とは異なる面がある。
一方、北米、欧州では逆風が吹いているにもかかわらず、さまざまな手を打っている姿も垣間見ることができた。その1つが日中共同開発の超急速充電規格ChaoJiでの、プロトコルの共通化だろう。これまでの急速充電規格では、中国GB/Tと日本発CHAdeMOでは、プラグ形状が若干異なり、かつプロトコルも別々だった。今回、ChaoJiでプラグ形状もプロトコルも共通化するということは、地域別の仕様がなくなり、汎用性が一気に増す。さらに、日米中で共同開発を進めているUltra-ChaoJiについても、将来特定の分野で期待ができる。
また、自動車分野とは異なるが、電動アシスト自転車などを対象にしてEPAC CHAdeMOの規格を発行するなど、関連企業に向けて開発がしやすくなっていくのではないだろうか。
今回、フォード、GMによる急速充電規格変更のニュースにより一時的に驚きが広がったが、よくよく考えてみると、現時点では世界の各地域でGB/T、CHAdeMO、CCS、NACSと4つの規格が存在しており、かつASEANのように各規格が乱立している地域もある。充電インフラは一度設置するとなかなか変えることが難しく、当面はこのような状況が続くだろう。その後、次世代としてどのような規格が良いのか、例えば既存の規格とChaoJiの組み合わせなど、検討していく時代が来るように思えてならない。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ボルボもテスラの急速充電規格を採用、アダプターでCCSも利用可能
Volvo Carsは、北米のボルボユーザーがTeslaのスーパーチャージャーネットワークを利用できるようにすると発表した。 - EVは「普及期」へ、生き残りに向けた3つの方向性
2023年にEVとPHEVを合わせた販売比率が18%になると予測されている。マーケティング理論上はアーリーアダプターからアーリーマジョリティーの領域に入る。また、多くの環境規制では2035年が1つの目標となっている。では、このように急拡大するEVシフトに対し、日本の自動車部品産業はいま何を考えておくべきか。 - ChaoJi(チャオジ)は他の急速充電規格とのハーモナイズを狙う
激しく動く環境において、急速充電の規格を管理するCHAdeMO協議会は今後どのような方向性で進もうとしているのか。また、日本と中国の共同開発である超急速充電規格「ChaoJi(チャオジ)」はどこまで進んでいるのか。前回取材から約1年経過した今、現状やChaoJiの進捗状況について、CHAdeMO協議会事務局長の吉田誠氏と事務局メンバーの丸田理氏にインタビューを行った。 - 日本の充電インフラのカギを握るe-Mobility Power、2030年代に向けた展望は?
日本政府は、成長戦略として2030年までに普通充電器12万基、急速充電器3万基を設置すると発表しているが、日本の充電インフラの拡充はどのように進めるのだろうか。その鍵を握る企業がe-Mobility Power(以下eMP)だ。eMP 代表取締役社長である四ツ柳尚子氏と企画部マネジャーの花村幸正氏、同アシスタントマネジャーの長田美咲氏に、現在の状況と将来の方針についてインタビューを行った。 - コマツがミニショベルにリチウムイオン電池、電動建機の市場形成へ
コマツは機械質量が3tクラスの電動ミニショベルの新機種を欧州市場に導入する。 - 中国企業の台頭、日本市場縮小の始まり……自動車業界の中期見通し
アリックスパートナーズは自動車業界のグローバルな見通しについて発表した。