原材料高騰しても営業利益は過去最高に、生産拠点の国内回帰も進む製造業:ものづくり白書2023を読み解く(1)(6/6 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2023年版ものづくり白書」が2023年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2023年版ものづくり白書」の内容を紹介していく。
世界市場においては自動車産業に大きく依存
日本の製造業の特徴や国際競争力について見ると、世界シェア60%以上の品目は米国、欧州、中国と比較して圧倒的に多い。その約7割は、エレクトロニクス系や自動車などの部素材であり、日本製造業の強みとなっている。
一方で、米国、欧州、中国と比較すると売上高1兆円以上の品目が少ない。特に売上高が10兆円以上の品目は自動車とハイブリッド車のみで、自動車産業に大きく依存していることが分かる(図32)。
最近では工場の先進性を図る新たな評価軸もある。世界経済フォーラムでは、世界の工場の中からロールモデル(灯台)となるような最先端工場を「Global Lighthouse(グローバル・ライトハウス)」として認定しており、2023年1月時点で、合計132の工場が選出されている(図33)。
選出工場の内訳を本社所在国ごとにみると、首位が米国で18社36拠点、続いて中国が14社25拠点、ドイツが8社14拠点となっている。その一方で、日本からの選出は、2社2拠点のみである。
「Global Lighthouse」として選出された工場に共通しているのは、デジタル技術の活用によるサプライチェーン全体の最適化を通じて、生産性の向上、市場ニーズをとらえた柔軟な生産、エネルギー効率性の向上と温室効果ガス排出量の削減などを実現している点だ。このように、製造業における先進性の評価軸として、経済的効率性だけではなくDXやGXといった「全体最適性」を実現する能力を重視する国際的な潮流が生まれつつある。ものづくり白書2023では、日本の製造業もこうした新たな国際的な潮流を認識し、DXやGXによる全体最適化の実現に取り組んでいく必要があると指摘している。
第1回では多方面から日本の現況を確認した。第2回では、今後製造業のニューノーマルにおいてキーワードとなる「レジリエンス」「グリーン」「デジタル」の内、「グリーン」を取り上げる。国内製造業における脱炭素の取り組み状況を概観しよう。
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筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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