知っておきたい振動測定の手段あれこれ:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(10)(5/5 ページ)
“解析専任者に連絡する前に設計者がやるべきこと”を主眼に置き、CAEと計測技術を用いた振動・騒音対策の考え方やその手順を解説する連載。連載第10回では「振動測定の手段」をテーマに幾つかの方法を紹介する。
レーザードップラー振動計
図13に、「レーザードップラー振動計」を示します。被測定物が運動しているとドップラー効果により反射光の周波数が変化し、これから被測定物の速度を測定します。測定レンジを切り替えることによって、非常に広い範囲の速度が測定できます。例えば、電圧出力では1[V]当たり2.5〜500[mm/s]まで切り替えることが可能です。また、周波数範囲も広くDC〜24[MHz]程度と機械振動の範ちゅうをはるかに超えています。一般論として、測定データにはノイズが含まれており、微分するとノイズが強調されますが、レーザードップラー振動計の場合、この問題は生じないようで、信頼できる加速度測定が可能です。また、積分信号(変位)も図4のようにはならず、信頼できる測定ができます。
図14にガルバノミラーを用いた多点計測の様子を示します。ガルバノミラーには2枚の鏡と鏡の角度を変えるアクチュエーターがあり、レーザー光を任意の方向に向けることができます。コンピュータ制御でレーザー光の向きを変えるため、多点計測が可能です。測定位置を素早く変えているので同時多点計測ではありません。ガルバノミラーはオプションにあるので、購入時はガルバノミラーを付けることをオススメします。
三脚を用いた測定器の欠点ですが、重力方向の振動を測定できません。図15は重力方向の振動を測定しようとした例ですが、三脚を天井に付けるわけにはいかず、難しいものがあります。鏡でレーザー光を曲げればよいのですが、鏡をマグネットスタンドのようなもので設置する必要があるため、図8と同じ理由から鏡の振動を測っているのか、被測定物の振動を測っているのかが分からない状態に陥ります。
工作機械の位置決め精度を測定する「レーザー測長計」も振動策定の手段となります。変位を測定することになりますが、ナノメートル〜ミリメートルオーダーの測定が可能です。DC〜25[kHz]の振動変位を測定できます。測定精度が高いので微分しても問題ありません。ただし、プリズムが入った約3[cm]角の箱を被測定物に取り付ける必要があります。
振動測定手段の比較
表3に、各振動測定手段の比較表を示します。安いものから順に試してみるとよいかもしれません。
方式 | 変位 | 速度 | 加速度 | 周波数範囲[Hz] | 長所 | 短所 | 価格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
圧電式加速度センサー | × | × | ○ | 0.07−10,000 | 手軽 | DC成分が測れない | 安価 |
圧電式加速度センサー 480B10(PCB製) |
○ | ○ | ○ | 0.07−10,000(加速度) 8−10,000(速度) 15−1,000(変位) |
手軽 | DC成分が測れない | 安価 |
ひずみゲージ式加速度センサー | × | × | ○ | DC−250 | 手軽、DC測定、高感度、重力で校正可能 | 高周波が測れない | 安価 |
渦電流式変位センサー | ○ | × | × | DC−3,300 | DC測定 | 振動しない固定点が必要 | 安価 |
レーザー変位計 | ○ | × | × | DC−25,000 | DC測定 | 振動しない固定点が必要 | ピンキリ |
レーザードップラー振動計 | ○ | ○ | ○ | DC−24,000,000 | DC測定、高感度、広い周波数範囲 | 振動しない固定点(三脚)が必要、重力方向測定が苦手 | 高価 |
レーザー測長計 | ○ | ○ | × | DC−25,000 | DC測定、高感度 | 振動しない固定点(三脚)が必要、被測定物にプリズムを取り付ける必要あり、重力方向測定が苦手 | 高価 |
表3 振動測定手段の比較 |
トレーサビリティー
今回は、計測器の話に終始しました。計測器といえば「トレーサビリティー」があります。計測器を購入すると「トレーサビリティーチャート」といって、家系図みたいなシートが添付されています。企業では、実験室で使っている計測器を年に1回計測器管理室に持っていき、測定値が正確かどうかを試験します。これを「校正」と呼んでいます。計測器管理室の計測器は親になります。計測器管理室の計測器は各都道府県の公的な機関にある計測器を使って校正され、公的な機関の計測器は国が管理する計測器により校正されます。国家間は相互認証になるのでしょうか。
しかし、こうしたことよりも、もっと気を付けなければならないことがあります。そうです。「お前、1ボルト何Gか、ちゃんと知っててデータを取っているのだろうな?」的なことの方が100倍重要なのです。
今回は振動測定の手段について取り上げました。次回は「振動シミュレーション」をテーマに解説します。ご期待ください! (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- マツダが取り組む音源寄与度分析、簡易モデルを用いた車内音予測手法による効率化事例
マツダは、ダッソー・システムズ主催の年次コミュニティーカンファレンス「SIMULIA Community Virtual Conference Japan 2021」のユーザー事例講演に登壇し、「量産開発適用に向けた効率的な風切り音予測および分析手法について」をテーマに、音源寄与度分析および簡易モデルを用いた車内音予測手法による効率化の取り組みを紹介した。 - ランドリー(洗濯機)を題材に音振動の低次元化モデリングを考える
「1Dモデリング」に関する連載。連載第8回では音振動のモデリングの事例として、ランドリー(洗濯機)を取り上げる。まず、ランドリーとは何かを機能と構造の視点で考える。その後、音振動の伝達経路、ランドリー固有の要素を説明し、ランドリーの1D振動モデルを示す。また、振動数が変化する外力のモデリング方法とゴムのモデリング方法を紹介する。これらを踏まえ、ランドリーの振動モデルを構築、定式化、解析し、最後に音の1Dモデリングに言及する。 - 内装形状の最適化で不要振動を低減したサウンドシステムを新型車に採用
デンソーテンの新世代サウンドシステムが、トヨタ自動車の新型「クラウン」に採用された。スピーカー周辺のボディーや内装形状を最適化することで、スピーカー駆動時の不要振動を低減している。 - 航空機や自動車の騒音を低減する、高速で正確な音響解析ソフトウェア
エムエスシーソフトウェアは、音響解析ソフトウェア「Actran 2020」をリリースした。高速で正確な音響解析が可能になるため、航空機や自動車のメーカーは、騒音を低減し、乗員の快適性を向上する製品を開発できる。 - 3D解析が可能な音響解析ソフトウェアを活用し、排気系騒音の解析フローを確立
ユタカ技研が、エムエスシーソフトウェアの音響解析ソフトウェア「Actran」を用いて、排気系騒音を予測可能な手法を開発した。総合的な音響解析が可能になり、排気音・放射音を高精度に解析するシステムの構築に成功した。 - 三菱自動車が取り組んだ床下空力騒音解析、“弱点”を解決した道筋
ダッソー・システムズは、オンラインイベント「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2020 ONLINE」を開催。その中でカテゴリーセッションとして、三菱自動車工業 第一車両技術開発本部 機能実験部 空力技術開発の奥津泰彦氏が登壇し「PowerFLOWとwave6を活用した自動車床下空力騒音の伝達メカニズム解明」をテーマに、床下空力騒音解析の数値計算手法と計算結果などを紹介した。