痛みを抑制する新しい調節機構を発見:医療技術ニュース
京都大学は、ショウジョウバエ幼虫の逃避行動をモデルに、ゲノムワイド関連解析を実施し、痛みによる逃避行動を抑制する遺伝子を発見した。
京都大学は2023年6月14日、ショウジョウバエ幼虫の逃避行動をモデルに、ゲノムワイド関連解析を実施し、痛みによる逃避行動を抑制する遺伝子を発見したと発表した。
動物は危険を感知すると、生存するために逃避行動をとる。今回モデルにしたショウジョウバエの幼虫も、天敵である寄生蜂が産卵管を刺入すると、痛覚刺激を感知し、体をよじって逃避することが知られている。
今回の研究では、ショウジョウバエの野生型系統の大規模コレクションであるDrosophila Genetic Reference Panelを利用して、30を超える関連遺伝子候補から、逃避行動を制御する責任遺伝子としてCG9336遺伝子を同定した。CG9336遺伝子はbelly role(bero)遺伝子と名付けられた。
幼虫神経系でのbelly role(bero)遺伝子の発現パターンを調べたところ、bero遺伝子は複数のペプチド産生ニューロンで発現し、腹部ロイコキニン産生(ABLK)ニューロンで発現したbero遺伝子が、逃避行動を抑制することが明らかとなった。また、ABLKニューロンの神経活動を誘導すると、逃避行動が引き起こされることも確認した。
続いて、正常個体とbero遺伝子機能を阻害した個体で、ABLKニューロンにおける痛覚応答を比較。正常ニューロンに比べてbero機能阻害ABLKニューロンは、痛覚に大きく応答した。ABLKニューロンは痛覚刺激のない状態でも神経活動が持続しており、bero機能を阻害することで持続的な神経活動が有意に減少することが明らかとなった。
これらの結果から、幼虫が痛覚刺激を受けると、ABLKニューロンの神経活動が増強して逃避行動が引き起こされること、また増強をbero遺伝子が抑制していることが示された。
痛みによるショウジョウバエの逃避行動は、さまざまな遺伝要因と環境要因によって調節されている。これまでにstraightjacket遺伝子やforaging遺伝子が痛覚を調節することは報告されていたが、今回発見した、GPIアンカー型Ly6タンパク質をコードするbero遺伝子が痛覚刺激を抑制する機構は類似のものがなく、新しい痛みの調節機構といえる。
動物が痛みを感じた際の逃避行動については、条件によって強弱することが知られているが、その調節メカニズムは不明だ。bero相同遺伝子はヒトにもあるため、今回の研究成果が痛みを制御する新しい治療法につながることが期待される。
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