躍進するアダプティブマシン、世界最大級加工包装展示会で見た潮流と進化:interpack2023 最新動向レポート(前編)(2/2 ページ)
3年に1回開かれる世界的な加工包装展示会「interpack2023」で感じた最新動向を2回に分けてレポートします。
進化する消費者ニーズにアダプティブマシンはどう適応したか
では、先述したような消費者ニーズを満たすため、interpack2023に出展していたマシンメーカーは、具体的にどのようなソリューションを展示していたのでしょうか。化粧水、スキンケア、香水、ホームケア用品など、小さいロット、短納期、コスト削減、迅速な型替えが求められるマーケットニーズに対する適応の事例を紹介します。
このようなニーズには、あらゆる製品形状、異なるサイズのボトル、それに付属する栓、ポンプ、キャップ、ボトル形状などに対して、粘度の異なるさまざまな液体を充填する必要があります。
それぞれの異なる製品仕様に対して専用マシンを設けることも可能ですが、コスト最適化の観点からも全製品を1台のマシンで製造できることが理想です。しかし、小ロット生産のため、製品型替えを頻繁に実施する必要があり、当然のように型替え時間は製造を行えないので利益を創出することができません。
ポーランドのUNILOGO ROBOTICSが提供するマシンは、この変種変量生産の課題を解決するソリューションとして注目されていました。
UNILOGO ROBOTICS創業者のTomasz Nowacki氏は「現代の消費者はせっかちであり、スマホで注文ボタンを押せば、翌日には商品が届くと期待している。このため、生産とサプライチェーンは、新しい市場の要求に適応する必要がある。新たな課題も山積しているため、われわれは、より機動的な生産に対応できるような、モジュール式で柔軟性が高く、切り替えの早いマシンを提案することにした」とコメントしています。
このマシンは、異なる形状やサイズのボトルを、製品ホルダーとリニア搬送システムが個別駆動するシャトルを組み合わせた独自システムで運用されています。製品ホルダーは3Dプリンタで製作するため、UNILOGOから3Dデータを受け取ると、彼らからの配送時間を待つことなく、その場でデータを基にホルダーを製作し生産テストを開始することができます。
このようなニーズは液体充填クリーンラインだけではありません。ナッツ、キャンディー、チーズなどの乳製品、冷凍食品、乾燥肉や果物、ペットフード、ホーム&パーソナルケア製品などのさまざまな分野においても、小ロット生産を経済的に実現するニーズが高まっています。
これらの製品をパッケージする際に利用されるのがパウチ袋です。異なる形状のパウチ、そして異なる内容物を頻繁に型替えでき、かつ経済的に充填しパッケージングできるマシンへの需要は、この分野で一層増しています。
このニーズに適応したマシンを展示していたのは、イタリアのpfm Packaging Machineryです。リニア搬送システムを縦方向、つまり垂直方向に上から下、下から上に流れるように設置し、その利点を活用しました。どんな場所でもパウチホルダーごとシャトルを取り外しできることは、製品生産工場におけるメンテナンス性の向上が考慮されています。
米国のBartelt Packagingは、リニア搬送システムの中にシャトルのメンテナンスピットを設けるなど、ユニークなアプローチで柔軟なパウチ製品の充填を可能にしました。
このマシンは、長期的な運用を見越したメンテナンスの考慮も盛り込まれています。個別駆動するシャトルのメンテナンス用のピットレーンが実装され、駆動データに基づいた予知メンテナンスが可能となり、問題が発生する前に対策を講じることができます。このようなデータ駆動型の先進的なアプローチは、効率的な運用を可能にし、急速に変化する消費者のニーズに対応する柔軟性をもたらしています。
後編では、パッケージング業界を新しい時代へと押し上げるゲームチェンジャーとして期待される、非接触型フローティング リニア搬送テクノロジーを実装したマシンなどについて紹介します。
筆者紹介
小松和幸(こまつ かずゆき)
B&R株式会社セールスマネージャー
日系産業用制御メーカーにて、主に自動車産業向けアプリケーションのシステム営業を担当。2014年にオーストリアのオートメーションソリューションメーカーであるB&R日本法人に入社。スタートアップメンバーとして参画し、OEMセールスマネージャーを経て現職。入社以来、日本の機械および装置メーカーが世界市場で勝ち続けるために価値あるソリューションやテクノロジーは何かを考え、精神一到の気持ちで臨んでいる。
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