伝え方が悪いと逆効果! Webで自社技術に興味を持ってもらうための戦術:間違いだらけの製造業デジタルマーケティング(5)(4/4 ページ)
コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第5回のテーマは「興味を持ってもらうための技術情報の伝え方」だ。
技術を魅力的に伝えるためのテクニック
さて、技術の魅力を伝えるための心構えを把握したところで、次は技術を魅力的に伝えるためのテクニックを紹介する。
資料のはじめに「アブストラクト」を入れる
相手は自身の問題を解決するための技術を探して、数多くのWebサイトを調査している。大抵はWebサイトの数が多すぎるため、各サイトの全ての詳細を確認することはせず、ぱっと見でそのWebサイトが自身に関係あるかどうかを判断している。そのため、コンテンツの初めの部分に概要(論文におけるアブストラクトのようなもの)を含めると、相手に対してこちらの技術概要を効果的に伝えることができ、その結果、コンテンツが読まれる可能性が高くなる。
コンテンツは目次から考える
コンテンツは、いきなり執筆するのではなく、目次を書くことから始めるのがよい。目次を作ることで相手に何を伝えたいのか整理しやすくなり、コンテンツの質が向上する。
例えば、次のような構成をあらかじめ考えておこう。
- 概要
- 一般的な技術と改善点(グラフなどを使って説明)
- その技術で何ができるようになったかの説明
- できるようになった理由(エビデンスなど)
- 何が可能になるのか(用途例、展望など)
相手が技術者の場合は、論文と同じような構成にすると読みやすくなる。想定閲覧者が技術者でない場合は、次のように技術情報ではなく「技術によってもたらされる価値」を紹介したほうがよい。
- 概要
- 課題の想起
- 既存技術で課題を解決できない理由
- 自社の技術の説明
- 技術を使うメリット
- 課題解決例
Webサイトの場合、相手が技術者か非技術者か選択できないため、ページを分けて掲載するか、両方を組み合わせたような構成にしたほうがよい。
- 概要
- 課題の想起
- 既存技術で課題を解決できない理由
- 自社の技術の説明
└4-1.技術開発の背景(既存技術で課題を解決できない理由)
└4-2.実現した理由と技術の裏付け (エビデンスなどの提示) - 技術を使うメリット
- 課題解決例
ページが長くなりすぎると逆に読まれなくなる恐れもあるので、文章は長くても5000字程度になるように調整し、必要であればページを分割したほうがよい。
画像、図、グラフ、表はできるだけ入れる
画像、図、グラフ、表、動画などの視覚的情報はできるだけ多く入れたほうが伝わりやすい。むしろ、文字ではなく視覚的情報を見ただけでも内容が伝わるような構成にするのが望ましい。
グラフは、技術者が求める情報を掲載すること。例えば、使用条件による変化、既存技術との性能の違い、量産によるばらつきの少なさなどである。
画像はできるだけ多く使ってほしい。特に、実験の結果などは画像は必ず載せたい。
図やイラストは構造や仕組みを分かりやすく表現するために、デフォルメではなく、実際のものに近いものを作ってほしい。相手に疑問を持たれないようにすることが重要である。動画は撮影と編集に時間がかかるが、技術の効果を伝えやすいツールであるため、時間とコストを使ってでも制作したほうがよい。
第三者のチェックを入れる(技術者&営業)
コンテンツができたら、必ず第三者にチェックしてもらうべきだ。特に、ターゲットとなる相手に読んでもらうと良いフィードバックがもらえる。1人ではなく複数人に読んでもらうことを勧める。
技術ベースと課題ベースで資料を分ける
技術の説明と技術を使った課題解決例とを分けると、伝える目的が明確になるため、相手にも伝わりやすくなる。また、1つの技術でさまざまな課題を解決できる場合、課題一覧と各課題の解決事例があると相手は情報を探しやすくなり、技術の応用範囲も想像しやすくなる。
できるだけ多く事例を入れる
事例は技術を伝えるための最高のコンテンツである。そのため、公開できる事例についてはどんなにささいなことでも掲載したほうがよい。掲載数が20個を超える場合は、カテゴライズして探しやすくするなどの工夫が必要になってくる。また、顧客事例を掲載するときは必ず許可を取ることを忘れてはいけない。
非技術者が技術者にヒアリングして資料を作る
最後に、テクニックというより資料を作る担当者の選び方について伝える。技術コラムを作る場合、社内の技術者が内容を整理して資料を作ることがあるが、技術者でない者が技術者にヒアリングをして資料を作ったほうが分かりやすい資料になる場合が多い。
というのも、技術者は技術の細部に目が行きがちで、かつ基礎知識を有しているため、知識を持っていない人がどこに疑問を抱くのか想像できないことが多い。反面、営業職などの非技術者は、技術の基礎から学ばなければ資料が作れないため、基礎を技術者に教えてもらいながら徐々に技術の本質を理解していくことになる。そのため、資料作りでも基礎的な内容が書かれるケースが多い。なお社内教育という点においても、この方法は有効である。ただし、技術者と非技術者の2人を長時間拘束してしまうことがデメリットだ。
当社では製造業の技術ライティングを請け負っているが、その経験の中で得た知見がある。技術の魅力を伝えるためには、とにかくまずは記事を書いてみることが大事だ。
技術情報を完璧に伝えようとすると、資料集め、エビデンス集め、イラスト作成など手間と時間がかかりすぎて一向に進まないケースが多い。しかし大切なのは、まず情報を発信することである。幸いWebサイトは編集しやすいツールであるため、後から情報を加筆修正することも簡単にできる。例えば下記のページなどは公開後にイラストや動画だけではなく、コンテンツを追加して何度も何度も修正したものである。
技術の魅力を伝えることは思っている以上に複雑で難しい。伝え方が悪いと興味すら持ってもらえないこともある。しかし、相手のことを考え、相手の課題と自社技術の価値を一致させることができれば、必ず相手に魅力を理解してもらえる。公開して終わりではなく、PDCAを回しながら技術の伝え方を工夫していってほしい。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧
筆者紹介
永井満(ながい みつる)
テクノポート株式会社 Webマーケティング事業部 名古屋オフィス責任者
日本大学大学院(航空宇宙工学専攻)を卒業後、新卒で入社したボッシュ株式会社にてディーゼルエンジンの設計職を経験した後、テクノポート株式会社へ入社。現在はWebマーケティングコンサルタントとして、中小企業から大手製造業まで幅広い企業のクライアントを担当。技術の魅力を伝えることにこだわったマーケティング支援を心がけている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ⇒連載「間違いだらけの製造業デジタルマーケティング」のバックナンバー
- 製造業にとってオンライン展示会は“使える”のか? コロナ後の可能性を考える
- 製造業でも急速に広まるデジタルマーケティング、得られる5つの価値とは
コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。第1回のテーマは「製造業がデジタルマーケティングで得られる価値」だ。 - 生き残る鍵は「個客理解」、サントリーが考えるwithコロナ時代のマーケティング
withコロナ時代をメーカーが生き抜くために、「個客理解」の重要性がこれまで以上に増しているとサントリー酒類は指摘する。AIなどを用いたDXを推進することで、顧客の価値観の変遷に合わせて柔軟にマーケティング戦略を構築していく必要がある。 - 社長はプロレーサー! ツーリングでマーケティング
機械切削の腕前も抜群なプロレーサー社長のマイクロモノづくりを紹介する。ツーリングやバイク教室もマーケティング活動の一環だ。 - これだけは知っておきたい! 「マーケティングって何?」(前編)
今回は、身近な存在のようだけど、いまひとつ理解しづらい「マーケティング」についての解説。T字型人材を目指すエンジニアなら、ちゃんと説明できるようになっておきたい。 - これだけは知っておきたい! 「マーケティングって何?」(後編)
マーケティングの基礎・後編では、「マーケティングミックス」について解説する。標的とした市場セグメントに、どのようにアプローチすればいいのだろうか。