デジタルファクトリーへの投資が持続可能性と成長への鍵:FAインタビュー
これからの製造業のトレンドなどをアナログ・デバイセズのシニア・バイスプレジデントのマーティン・コッター氏に聞いた。
刻々と変化する事業環境やカーボンニュートラルへの対応など、生産現場に求められる要素はこれまで以上に複雑化している。その中で、製造業における今後のトレンドなどについてアナログ・デバイセズ インダストリアル&マルチマーケット担当 シニア・バイスプレジデントのマーティン・コッター氏に聞いた。
MONOist 製造業を巡る現在の状況をどのように見ていますか
マーティン・コッター氏(以下、コッター氏) 製造業を中心とした産業界は今、非常に興味深い転換期に来ているとわれわれは考えている。従来は、長年の投資がGDP(国民総生産)の伸びに直結するような相関関係が見られた。今は、従来型の製造業への投資では過去のような成長はもう期待できない。しかし、これをDX(デジタルトランスメーション)と併せて進めていくことで、より高い成長を実現することができる。これからの設備投資はまさにそういったデジタル技術を駆使したデジタルファクトリーへの投資が主流になっていくはずだ。
従来の工場とデジタルファクトリーには大きな違いがある。工場内のネットワークの通信量、通信速度は格段に高まり、各種センサーによって状況が見える化される。われわれの製品は主にこうしたデジタルファクトリーのエッジ部分で、データの計測やセンシング、データ処理を行っている。工場においても既にいわゆるデジタルツインなどの新たな技術もさまざまな形で使われるようになってきている。言い換えれば、デジタルファクトリーはこうしたデジタル技術をベースに大きく進化をしてきているといえるだろう。
MONOist カーボンニュートラルなどの流れが製造業にどのような影響を与えてるでしょうか
コッター氏 デジタルファクトリーを推進する一番の原動力になっているのは、持続可能性の実現と考えることができる。
これまで過去200年間を見れば、世界の経済成長と地球温暖化は切っても切り離せない関係にあった。例えば1820年から2020年までの200年間で、グローバルのGDPは100倍に成長し、それに伴ってエネルギー消費量およびCO2の排出量も莫大に増加した。
1880年の気候の平均気温と比べると、現在は1.1℃上昇している。従来は2050年までに1.5℃の気温上昇という予測が出ていたが、今のペースで進めば1.9〜2.9℃まで上昇するとも言われている。これらに歯止めをかけるためには、何らかの技術が必要だ。
MONOist 具体的にどのような取り組みが産業界で必要になるでしょうか
コッター氏 2050年までに温室効果ガス排出量の80%削減が現在の世界の目標となっている。この目標を達成するためには、大きく2つやらなければいけないことがある。
1つ目は省エネルギーを劇的に進めることだ。具体的には、目標を達成するためにはエネルギー効率を2倍にしなければならない。つまり、同じことをやるのに必要なエネルギーの量を半分にすることだ。2つ目に再生可能エネルギーの使用量を現状の9倍に増やさなければならない。
産業分野だけで、世界全体のエネルギーの45%が消費されているとも言われている。その課題に対応しようと出てきたのが、デジタルファクトリーという考え方だ。エネルギー効率を2倍にするためには、工場の状況をモニタリングしたり、効率的なモーターやセンサーを導入したりすることが今考えられている。
また、EV(電気自動車)だけでなく、バッテリーや半導体の製造工場においても大型化した新たなタイプの生産形態として、ギガファクトリーという考え方は広がっていくはずだ。
デジタルファクトリーの基本になるのがインテリジェントエッジだ。われわれが提供するテクノロジーも、このエッジ部分からデジタルファクトリーを支えるものになる。
デジタルファクトリーは、常時接続されたセンサーなどにより、高いレベルのコネクティビティーでさまざまな情報がリアルタイムに送られ、処理される。また、ソフトウェアによって製造プロセスはより個別最適化と柔軟性をもったモジュール化が進展する。これらによってエネルギー効率が向上し、持続可能性を高めることができる。
コッター氏 現在、工場の中で最も多くのエネルギーを消費しているのはインダクションモーターなどで、7割のエネルギーが消費されている。古いモーターの中には運転効率が良くないものも多い。これらの古いモーターをいかに新しくしていくかが、生産効率の向上に大きな要素になってくる。新型モーターに更新したり、あるいは技術革新を導入したりすることで生産性の向上が期待できる。
また、現状のロボットはまだ全てが効率的に動いているわけではない。モジュラーマニュファクチャリングではよりフレキシブルで俊敏性があり、変化に素早く対応できるロボットが必要になってくる。このようなモジュラーマニュファクチャリングに移行することで、現状のロボットが担う作業を大きく拡大することができる。
ただ、われわれはそうした技術を全て独自に開発しようとしているわけではない。パートナーやユーザーなどさまざまな形で協議をしている。その舞台となっているのが、ADI Catalystと呼ばれる欧州の研究拠点だ。約1万m2の研究施設でサステナビリティを支えるための技術開発を行っている。
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