「車載用電池はPDPの二の舞とはならない」パナソニックHD楠見氏が語る2年間:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は報道陣の合同インタビューに応じ、就任後2年間の手応えについて語るとともに「成長へのギアチェンジ」とする中で今後の方向性について説明した。本稿では「2年間の振り返り」「車載用電池」「環境への取り組み」についての質疑応答の内容を紹介する。
車載用電池の大型投資はPDPの二の舞を踏まない
―― 車載用電池事業は競合企業が増えており、部分的にはレッドオーシャンになっているように見える。重点投資領域と位置付けているが、かつて大型投資を行って失敗してきた事業としてPDP(プラズマディスプレイパネル)や液晶パネルなどがあったが、二の舞になることはないのか。
楠見氏 半導体やディスプレイパネルなどのビジネスモデルと車載用電池が異なるのは、進化の世代に合わせて製造装置を全て入れ替えなければならないか、そうでないかというところにある。ディスプレイパネルではガラスサイズを大きくしていく競争があり、その中で設備への再投資が必要になる。一方で車載用電池はサイズが変わらなければ、設備を全て入れ替える必要はなく、新しい工場が必要になるわけではない。全固体電池などになれば変わってくるが、基本的には製法は大きくは変わらない。
そのため、エネルギー効率の高い4680セルの電池であれば、しばらくは同じ設備が活用できる。こういう環境であることから、シェアを必ずしも大きく取らなければ生き残れないビジネスではなく、技術で価値を示し、一定の顧客をつかんでしっかり役立つことができれば勝ち残っていけると考えている。
―― 電池は原材料費の高騰などがあり、生産量が増えても利益率が下がる可能性がある。大規模な投資をして生産量を増やしてもその分利益が増えるとは限らないが、こういう点についてはどう捉えているのか。
楠見氏 原材料の高騰はどの企業にも等しく作用するため競争環境に変化をもたらすとは思わない。問題は原材料価格の高騰の影響が原価のどれくらいを占めるのかという点だ。それを見極めながら価格高騰が大きな材料については代替の成分の模索などを進めていく。
―― パナソニックグループの車載用電池の重点投資は北米を中心に位置付けているが、EV(電気自動車)の成長を見ると、中国や欧州も大きい。これらの市場についてはどう考えているのか。
楠見氏 欧州では業界の構造が既に定まりつつあるような状況もある。さまざまな市場環境などから、今は米国に集中する。
全てが再生可能エネルギー由来の世界実現へ
―― グループ戦略発表ではCO2削減貢献量の普及を強調した。仲間作りや海外との連携については今後どうしていくつもりか。
楠見氏 削減貢献量についてはもともとWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)と議論してきた。その中で3月にはガイダンスを発表した。ただ、具体的に価値のあるものにしていくためにはルール作りが必要だ。既存の製品を使い続けたときに出るCO2排出量と、新たな製品に置き換えたときのCO2排出量の差分を削減貢献量としたが、業界や製品ごとに測り方を明確にしていく必要がある。明確に測ることができない場合も多く課題が多いのも事実だ。われわれは電機業界としてIEC(国際電気標準会議)を中心に標準化を進めていく考えだが、さまざまな業界で客観的な指標として機能させるためにどうするべきかという議論や活動を続けていく。
こういう活動を続けていく上では政府の後押しも重要だ。そういう意味ではG7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合において「削減貢献量を認識することに価値がある」と成果文書に組み込んでもらえたことは非常に大きかったと捉えている。経済産業省にも支援をいただいて、国同士の交渉なども進めていってもらう。1企業のためというよりも業界や産業を挙げて地球環境問題への対策を加速していく。
―― 「Panasonic GREEN IMPACT」で環境関連の担当者から「やりやすくなった」という声も聞いた。社員の意識はどう変わったか。
楠見氏 環境関連の取り組みはどうしても社員全員で進めていく必要がある。資源循環については各事業で製品にどう反映するかを考えなければならない。また、サプライヤーへの要求事項として組み込むほか、逆に組み込まれた要求に対応する状況がある。そういう意味では従来とは異なり事業に直結する話が既に数多く出てきているということがある。
こうした中で社員のモチベーションにつながっているのかというと、一部ではつながっているといえる。社員の中にはもともと環境問題への危機感の高い人も多く、社内SNSでの反応を見ると「環境問題にいち早く積極的な姿勢を見せていて誇らしい」という声なども出ている。そういう期待に応えられるような活動を進めていきたい。
―― CO2削減貢献量を大きくしていくために、各事業部の製品戦略に直結させる可能性はあるのか。
楠見氏 機種のラインアップでどういう変化を付けるかは分からないが、少なくとも製品ライフサイクルとして省エネを進めていくスコープ1〜3の話と、CO2削減貢献量の話を同じ軸でするのはだめだという話はしている。これらを同軸で扱い、手を加えていけば、グリーンウォッシュ(※)となってしまう。省エネは省エネで、資源循環は資源循環で、製品機能は製品機能で、それぞれの軸で進めていくというのが前提だ。
その上で、削減貢献量の大きいものと小さいものがあり、その大きいものに目を向けていく。例えば、テレビなど家電製品では既に相当省エネ化が進んでおり、仮に省エネ化を進めたところでCO2削減貢献量としてはそれほど大きなものにはならない。一方で、化石燃料を使うような領域では、化石燃料をエネルギーとしていたものを電気に置き換えるだけで大きなCO2排出量を削減できる。さらにその利用電力を再生可能エネルギー由来にしていけば、さらに下げられる。そういう考え方で進めていく。
(※)グリーンウォッシュ:環境に良いという「グリーン」と取り繕うを意味する「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた言葉で、「環境に良いように取り繕った製品やサービス、情報発信」などを示している
―― 地球温暖化対策と資源循環の両面を重視する考えを示しているが、地球温暖化対策としての活動と資源循環に対する活動はトレードオフになる面もある。その兼ね合いについてどう考えるか。
楠見氏 パナソニックグループでもいくつも資源循環のためのリサイクル工場を抱えているが、こうしたリサイクルや資源循環にかかるCO2排出量を下げていくということが重要だと考えている。資源循環に必要なエネルギーを化石燃料由来のものに頼るのであれば、いつまでたってもこのトレードオフの関係から脱することはできない。まずは使用するエネルギーを電力に切り替え、それを再生可能エネルギー由来のものへと切り替えていく。エネルギーが全て再生可能エネルギー由来のものになっていけば、必然的に資源循環に使うエネルギーもクリーンなものに切り替わっていく。
パナソニックグループとしてはエネルギーインフラに直結する取り組みは、今は水素燃料電池くらいしか思い当たらないが、業界や産業や国がそういう環境を作っていくことが必要になるだろう。インフラとして再生可能エネルギーが中心となる環境が生まれれば、地球温暖化対策と資源循環の関係はトレードオフではなくなり並行して進められるようになる。
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