目が見えなくなると触覚機能が向上するメカニズムを解明:医療技術ニュース
名古屋大学は、目が見えなくなると触覚機能が向上するメカニズムを解明した。ミクログリアにより体性感覚野から高次視覚野への伝達経路の抑制システムが解放され、神経活動応答が増加することで、触覚の機能が向上する。
名古屋大学は2023年4月24日、脳内のグリア細胞の1つであるミクログリアに着目し、目が見えなくなると触覚(体性感覚)機能が向上するメカニズムの一端を解明したと発表した。発達初期に視覚が遮断されると、ミクログリアにより伝達経路の抑制システムが解放され、触覚刺激に対する神経活動が増加して、触覚機能が向上する。
視覚や触覚などの感覚情報は、後頭部にある視覚野、頭頂部にある体性感覚野のように、各専門部位で情報処理される。視覚情報を失うと、視覚野は代わりに聴覚や体性感覚を処理するようになり、聴覚や触覚が鋭敏になる。
今回の研究では、開眼して間もない生後2週間のマウスの片目を遮断処理し、視覚遮断モデルマウスとして使用。視覚遮断モデルマウスと正常マウスのヒゲに刺激を与えると、どちらも同等に一次体性感覚野から高次視覚野への情報伝達経路が応答した。このことから、一次体性感覚野から高次視覚野への伝達経路が、潜在的に存在することが分かった。
ヒゲを刺激した際の高次視覚野の神経活動を調べたところ、正常マウスは神経活動が抑制されていたが、視覚遮断モデルマウスでは高い神経活動応答を示した。一方で、ミクログリアの除去で視覚遮断モデルマウスでも神経活動が抑制されたため、ミクログリアにより高次視覚野の神経回路再編が誘導される可能性が示された。
そこで、視覚遮断後のミクログリアのシナプスへの関与に着目。視覚遮断後、ミクログリアは、細胞外で足場として機能する細胞外基質をマトリックスメタロプロテアーゼ9によって溶かすことで抑制性シナプスを剥がし、興奮性神経細胞への抑制性入力を減少させることが明らかとなった。
また、ヒゲ刺激を用いて感覚訓練学習を行ったところ、視覚遮断モデルマウスは、正常マウスに比べて早く学習が成立した。高次視覚野の神経活動を減少させたり、ミクログリアを除去すると、その学習効率は正常マウスと同程度まで低下した。これらの結果から、視覚遮断後の高次視覚野でのミクログリアによる神経回路再編成は、触覚の能力向上に寄与することが明らかとなった。
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