血液脳関門を開放し、脳の目標部位に遺伝子を導入する技術を開発:医療技術ニュース
京都大学は、血液脳関門を物理的かつ一時的に開放し、脳の目標部位に遺伝子を送り込む技術を開発した。ウイルスベクターと経頭蓋集束超音波照射を利用したベクターデリバリー手法で、特定の脳領域に選択的かつ非侵襲的に遺伝子を導入できる。
京都大学は2023年4月20日、血液脳関門(BBB)を物理的かつ一時的に開放し、サルの脳の目標部位に遺伝子を送り込む技術を開発したと発表した。ウイルスベクターと経頭蓋集束超音波照射(tFUS)を利用したベクターデリバリー手法により、特定の脳領域に選択的かつ非侵襲的に遺伝子を導入できる。スペイン・神経科学統合センターとの共同研究による成果だ。
BBBは、血液からの異物混入を防ぐバリアとして機能する。そのため通常は、遺伝子情報を運ぶウイルスベクターも通過できない。
今回開発した手法では、tFUS装置を活用し、静脈を介して血液へ送り込んだ微小な泡に超音波を当てることで、特定部位のBBBを物理的かつ一時的に開放し、血管内投与したベクターを脳の目標部位に局所的に導入できる。ベクターは、ウイルスゲノムを囲むタンパク質の殻であるキャプシドを改変した、9型アデノ随伴ウイルス(AAV9)ベクターを利用する。
造影剤のガドリニウムを用いた実験では、サルの脳の被殻に限局して、比較的広範囲にBBBが開放されていることを確認した。
GFPをレポーター遺伝子として用いた実験では、多数のニューロンにGFPが発現しており、目的遺伝子が導入されていることが示された。また、被殻の組織標本では、多少の局所的な炎症は認められたものの、組織損傷は見られなかった。
tFUSとウイルスベクターの血管内投与により、特定の脳領域へ選択的な遺伝子を導入する手法をサルにおいて確立できたことで、パーキンソン病などの神経疾患に対する安全な治療法開発への応用が期待される。今後は、霊長類の疾患モデルで同技術の有効性を検証する。
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