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AM(アディティブ・マニュファクチャリング)が実製品活用されない国内事情とは何か金属3DプリンタによるAMはなぜ日本で普及しないのか(1)(2/2 ページ)

新しいモノづくり工法であるAMは、国内でも試作用途では導入が進んできている一方、実製品用途となると全くと言っていいほど活用されていない。本連載では、何がAM実製品活用の妨げとなっており、どうすれば普及を進められるか考察する。

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試作コピー出力用でしか使われていない国内AM

 国内でAMが使われていないかと言うとそうではありません。大学をはじめとする研究機関や企業の研究開発部門で、さまざまなAM装置が使われていることはご存じの通りです。中小企業を含めたモノづくり企業の設計、試作確認用途でも多く使用されています。

 しかし、実製品での活用は一向に始まる気配がありません。AMの得意とする小ロット在庫レス生産を必要とする保守部品についても、実製品活用事例が多く見られる海外の状況と比較して、国内でのAM活用事例を見ることはないに等しい状況でした。

 展示会などAMのイベントは盛況で、ほとんどの企業はAMに関心があり、試作コピー出力用としては使用されているAMが、なぜ実製品で活用してもらえないのか。その理由を知ることがAM普及活動の大きな課題となりました。

AM実製品として活用できない理由

 AMを試作コピー出力用として活用するだけであれば、極端な言い方をするとAM装置だけの情報を収集し、「造形がきれいだ」「造形が早い」「取扱いが簡単」などの特徴を基に活用判断ができ、他部門との調整や会社への申請理由も「試作納期短縮」「試作多様化」などで比較的簡単だったと思います。

 しかし、実製品活用となると、次のような検討や作業が必要となります。

  • 設計変更

 AMは現工法での設計(3DCADデータ)ではコスト、納期ともメリットが出ない。保守品においても、寸法精度が必要な部分(切削加工等の後加工が必要)は、3DCADデータに切削代を付加した3DCADデータを作成し、AMで使用しなければならない。

  • 材料変更

 AMで使用される材料は現工法で使用される材料と異なる。同仕様の材料であっても、製造方法が違うので、AM造形品の物性は現工法製品の物性とは異なり、そのために各種確認作業が必要となる。

  • AM装置設定(レシピ)変更

 試作コピー出力用途としてAMを使用する場合は、AM装置メーカー提供の推奨設定(レシピ)を使用していればいいが、実製品の材料/形状/要求仕様によって、AM装置の設定を独自に設定する必要がある。金属AM装置においては、最適設定の確認作業は膨大な作業量となる。

  • 後加工(ポストプロセス)連携

 前述の通り、寸法精度が必要な部分の加工(主に切削)や物性確保の熱処理など、後加工(ポストプロセス)との連携確認作業も必要となり、そのほとんどが現工法で行ったことのない知識や経験が必要となる。

  • 品質保証

 前述のような作業を行うとなると当然、品質保証についても新たな検討、確認作業が多く必要となり、しかもこれらは、現工法での知識経験と大きく異なる場合が多い。

 これらの業務実行を想像しただけでも、「AM実製品活用をするべきなのか」と思ってしまうのは、普通の思考ではないかと思います。

AM実製品として活用できない理由
AM実製品として活用できない理由[クリックで拡大]出所:日本AM協会

なぜ海外はAM実製品活用できているのか

 AM実製品活用をするためは、現工法と大きく異なった膨大な作業(費用)が必要であることは、ご理解いただけたと思います。では、AM実製品活用で10年以上進んでいると諸説言われている海外は、どうしてAM実製品活用が進んでいるのでしょうか。国民性の違いなど諸説あるとは思いますが、産業構造の違いが大きな要因と考えます。

 AM活用のメリットとして挙げられる、複雑一体化構造、軽量化構造、小ロット生産を必要とされ、それに大きな開発費を投入できる産業は何か。それは航空/宇宙/防衛産業です。

 AM実製品活用が進む海外では、これらの産業分野は企業にとって大規模なビジネスであり、よって国や研究機関も支援していると思われます。また、そこで培われたAM技術が、民生品へ活用されていることは言うまでもありません。航空/宇宙/防衛産業のビジネス状況が海外と違う国内において、AM実製品活用は進むのでしょうか。

国内でのAM実製品活用の可能性はあるのか

 日本におけるAM実製品活用の可能性がないと思うのであれば、日本AM協会の設立や活動も必要ありません。しかし、決定的な打開策をまだ見つけられてもいません。ただ、AM普及活動を行う中で入手できた実製品活用事例や、各企業でAM実活用のご苦労をされている方々の話を伺うことで分かったことがあります。

 実製品活用事例がある企業においては、経営層(リーダーシップをとる方々)に揺るぎないAM活用の信念があり、実業務を行う現場の理解(協力者)も得ていることです。また、現工法とは大きく違った知識と業務を必要とするAMですが、それらを推進するための手法やモチベーションは、今までの工法で努力し成功をしてきたことと変わらないと思われます。

 よって、膨大な作業(コスト)を必要とするAM実製品活用ですが、いかに早いタイミングで取り組みに着手してもらえるような情報提供を、経営層や現場に行うことが重要です。そのためには官庁や研究機関の協力も得て、情報の収集と公開に取り組む必要があると考えます。それこそが日本AM協会の使命ではないでしょうか。

 次回は、このような国内事情の中でモノづくり企業がAMにどのように向き合えばいいかを記載します。


著者紹介:

一般社団法人日本AM協会 専務理事

澤越 俊幸(さわこし としゆき)

近畿大学理工学部経営工学科卒業後、1985年に立花商会(現:立花エレテック)へ入社し、制御、映像、特殊端末などの各種システム販売を担当する。2013年にAM(3Dプリンタ)販売担当になると、2014年に任意団体「3Dものづくり普及促進会」発足し、事務局を担当。2022年に3Dものづくり普及促進会を一般社団法人日本AM協会に移行し、現在に至る。



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