世界中の妊婦と胎児を見守るハート型IoTデバイス――メロディ・インターナショナルの挑戦:越智岳人の注目スタートアップ(8)(4/4 ページ)
胎児の心拍と妊婦の陣痛を測定し、離れた場所にいる医師とデータ共有できる医療機器「分娩監視装置iCTG」を開発するメロディ・インターナショナル 創業者でCEOの尾形優子氏に開発経緯や取り組み内容について聞いた。
途上国に向けたコストダウン
製品は完成し、国内でも導入が始まった。海外からの関心も高い一方で、価格面が課題となった。従来のCTGよりも安価な価格になったとはいえ、発展途上国で展開するには大幅なコストダウンを実現しなければならなかった。
国内のEMS開拓は過去にやり尽くしたので、新たなパートナー探しは難しい。海外への販路開拓を検討していた2020年に、尾形氏は世界最大規模の家電見本市「CES」に出展。そこで言葉を交わした日本人との出会いが次の突破口を開くきっかけとなる。
ハードウェアスタートアップに特化したVC(ベンチャーキャピタル)Monozukuri Venturesの木村美都氏はメロディ・インターナショナルとの出会いを振り返る。
「CESの会場で製品デモを見て、『途上国で売るには高いね』という話をしたのを覚えています」(木村氏)
一方で、木村氏はコストダウンしやすい仕様に作り変えると同時に、医療機器製造の実績がある海外の工場を活用すれば、途上国向けに展開できるのではないかと考えた。木村氏と尾形氏は帰国後に早速面談。同年5月にはMonozukuri Venturesからの投資を受けると同時に、コストダウンに向けた途上国モデルの開発が始まった。
Monozukuri Venturesは投資に加え、スタートアップの量産コンサルティングチームを社内に有している。これまでにも投資先スタートアップの製品の量産やコストダウンを支援してきた実績から、メロディ・インターナショナルのiCTGもコストダウンできる可能性は大いにあるという直感があったのだ。実際、木村氏は投資前の審査過程で社内のコンサルタントに相談し、「量産時に大幅なコストダウンができる余地がある」という意見を得ていた。
「大手医療機器メーカーとの取引がある工場を紹介され、製造原価は大幅に下がりました。部品調達の面でも交渉力があるEMSのおかげで、安定的に安く部品を調達できる体制ができ、2023年度の後半から2024年度には途上国向けモデルの販売ができる見込みです」(尾形氏)
ハードウェアスタートアップが創業から製品化にこぎ着けるまでには、さまざまなハードルがある。とりわけ製品化は自社だけでできるものではなく、部品メーカーや商社、製造/加工工場などと一体になって取り組む必要があり、莫大(ばくだい)な予算と時間が欠かせないケースも珍しくない。幾多のハードルを飛び越えて、課題解決とビジネスを両立できるようになるためには、創業者の強い意志が必要だ。メロディ・インターナショナルは尾形氏が途上国で目の当たりにした現場の状況が、難易度の高い製品化を実現させた。また、尾形氏に共感する創業メンバーや社員、協力パートナーの存在も欠かせない。
くしくもコロナ禍で国内のオンライン診療に対する障壁も大幅に緩和され、医療関連のスタートアップにとっては強い追い風が吹いている。医療機器という難易度の高い領域で、新たな製品の開発に成功したメロディ・インターナショナルは飛躍の時期を迎えている。
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