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リチウムイオン電池の劣化を「容量低下」で片付けない今こそ知りたい電池のあれこれ(20)(3/3 ページ)

今回は、分かるようで分からない電池の「劣化」とは何なのかをあらためて考えていきたいと思います。

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リチウムイオン電池の「劣化」は一連の流れで考えるべき

 今回ご紹介したような種々の要素を踏まえて整理すると、単に容量減少が抑えられたからといって、その電池が「劣化」していないとは判断できません。

 前回のコラムで研究報告事例をご紹介したように、たとえSOHの値が同じパーセンテージであったとしても電池内部の劣化状態が異なり、結果として電池の安全性に差が生じる場合も考えられます。状態変化としての劣化は、劣化に寄与する各要素が複合的に絡み合う中、その状態で起こり得る現象であり、種々の分析からその具体的な状態を個別に考えていく必要があります。

 以上を踏まえ、ここまで解説した各要素の関係を整理すると、次のような文章になります。

リチウムイオン電池の劣化は、「発生要因」によって「発生箇所」に「状態変化」が起こったために「測定結果」として観測される。

 本来、リチウムイオン電池の「劣化」とは、こういった一連の流れで考えるべきものです。


一連の流れで劣化を捉える[クリックで拡大]

 しかし往々にして、一連の流れ全体ではなく、その中から部分的な要素のみを抜き出して限定した状況を考えてしまいがちであるのが、冒頭から繰り返し述べている電池の「劣化」という言葉のもつ意味の曖昧さ、「劣化」という概念を説明に用いることの難しさではないかと思います。


それは劣化の部分的な要素ではない?[クリックで拡大]

 日本カーリット受託試験部では、電池試験所と危険性評価試験所という2つの試験所で、それぞれ異なる電池試験に対応しています。電池試験所では電池の性能、電池の基本動作となる充放電に直結する特性や長期耐久性を示す寿命特性などを評価しています。

 一方、危険性評価試験所では電池の発火や破裂といった危険事象の発生を左右するもの、文字通り電池を安全に使用することができるかを表す特性について、火薬類を始めとする各種危険物を取り扱い可能な試験環境や技術、ノウハウをもって評価しています。

 これらの試験所で評価することができるのは、今回の内容に沿って考えると、あくまでも「測定結果」です。しかしそこにとどまらず、得られた結果から、そこに至るまでの過程における「発生要因」「発生箇所」「状態変化」を考えていくことが、電池の「劣化」を理解していく上では大切になってきます。

 今回は、分かるようで分からないリチウムイオン電池の「劣化」という概念について、あらためて整理してみました。劣化を何か1つの要素に限定するのではなく一連の流れで考えるものとして、その考え方の一例をまとめてみましたが、リチウムイオン電池の劣化メカニズムやそれによってもたらされる影響というものはまだまだ完全には分からない部分が多いのが現状です。日本カーリット受託試験部では、今後も電池評価技術の向上や電池業界の発展に貢献できるよう努めてまいります。

著者プロフィール

川邉裕(かわべ ゆう)

日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。

▼日本カーリット
http://www.carlit.co.jp/

▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/

▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html

→連載「今こそ知りたい電池のあれこれ」バックナンバー

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