品質だけでない現場のコンプライアンス違反リスク、複雑な要請にどう対応するか:複雑化した工場リスクに対する課題と処方箋(1)(2/2 ページ)
これまで製造現場のコンプライアンス違反といえば、品質にかかわる不正や不祥事がメインでした。しかし近年、ESG経営やSDGsの広まりから、品質以外の分野でも高度なコンプライアンス要求が生じています。本連載ではコンプライアンスの高度化/複雑化を踏まえ、製造現場が順守すべき事柄を概観します。
リスクアセスメントの意義および重要性
このように、工場をはじめとした製造現場におけるコンプライアンス違反のリスクエリアは、品質、環境、労働安全衛生、情報管理など、さまざまな範囲におよびます。そして違反発生時には、自社の損失だけではなく、株主や顧客、取引先、従業員、地域社会などのさまざまなステークホルダーへも悪影響をおよぼします。
ただし、このようなコンプライアンスに関する要請の高度化/複雑化を受けて場当たり的に対応しても、コンプライアンスに対する効果が得られないばかりか、現場の負担をいたずらに増やし、生産性の低下といった悪影響を引き起こすことにつながりかねません。
有事対応の場面においても、対外説明や賠償、規制当局への報告などの危機対応に追われるあまり、原因を所掌部門の問題と早計に断じ、真因の特定と再発防止を十分に行わないケースも多く見られます。その結果、問題が再発し、さらに深刻なダメージを受けるリスクがあります。
こうした問題に対応するためには、自社が抱えるリスクについての網羅的な棚卸と評価(リスクアセスメント)を行い、各リスクの未然予防を図るとともに、リスクが発現してしまった場合にも備え、ダメージコントロール策を導入しておくことが重要です。
ここで強調しておきたい点は、リスクアセスメントを行えば、コンプライアンス違反を撲滅できる、というわけではないということです。多くの企業では、ISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)などの規格取得を通じて、リスクアセスメントを含めた予防対応を実施しています。しかし、ISOなどの規格を取得している企業であっても、品質不正/不祥事や環境問題などのコンプライアンス違反を起こしている現状があります。
私たち執筆陣は、コンプライアンス違反が生じる企業は、リスクアセスメントの対象範囲や実施方法、発見されたリスクに対する打ち手の立案と実行に共通の問題を抱えていると考えています。
それを踏まえて、次回はリスクアセスメントの実行的/効果的な進め方や、実際にリスクアセスメントをコンプライアンス違反リスクの未然予防や早期発見、有事のダメージコントロール対応にどうつなげていくのか、その方法とポイントについて解説します。
⇒連載「複雑化した工場リスクに対する課題と処方箋」のバックナンバーはこちら
⇒連載「事例で学ぶ品質不正の課題と処方箋」のバックナンバーはこちら
⇒特集「製造業×品質 転換期を迎えるモノづくりの在り方」はこちら
筆者紹介
水戸貴之(みと たかゆき)/アソシエイトパートナー
法曹団体を経て現職。品質コンプライアンス対応支援、グローバル法務・コンプライアンス組織/制度の策定・運用・高度化・モニタリング対応支援、海外子会社管理支援等に従事する。法務・コンプライアンス対応に関する執筆・講演実績多数。
馬場 智紹(ばば ともつぐ/シニアマネジャー
事業会社や他コンサルティングファームを経てKPMGコンサルティング株式会社に参画。複数の不正調査案件や事業再生案件の他、調査後の再発防止計画の立案・実行支援の中での各種当局対応支援の経験を有する。
荒尾宗明(あらお むねあき)/マネジャー
中央官庁において、規制法の制度設計・運用や不正対応等を経験し、2022年にKPMGコンサルティングへ参画。グローバルでの法務・コンプライアンス、地政学リスクマネジメントなど各種リスクコンサルティング業務を担当。
中野成崇(なかの みちたか)/シニアコンサルタント
商社を経てKPMGコンサルティングに参画。製造業向けコンプライアンス研修の企画実行支援、海外労働法令の順守支援、製造現場や工場におけるコンプライアンス支援、独占禁止法や下請法等の競争法への順守対応支援等の法務コンプライアンス領域の支援業務に従事。
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