【ケース11】PDMシステムで流用設計を管理するには?:設計現場のデータ管理を考える(11)(2/2 ページ)
連載第11回は「PDMシステムで流用設計を管理する方法」をテーマに、流用設計のデータ構成とPDMシステムの管理のポイント、その際の留意点などについて解説する。
PDMシステムによる流用設計のデータ管理について考える
Aさんの考えも少しずつまとまってきたようです。
Aさんの考え(心の声):
当社(X社)の設計現場は、ユニット構成管理もできているし、3D CAD上でも総組立図(トップアセンブリ)に対してのユニット構成(設計ツリー)も正しく構築されている。部品表(BOM)の対応もできており、顧客ごとの要望についても把握している。さて、どうやってPDMシステムで管理しようか……。
フォルダ構成によっては、顧客ごとの3D CADデータを、改訂履歴や共通部品のリンクを保持しながら管理できそうだな。あと、最近はいろんな顧客から「装置β」の注文も増えているから「誰もが共有できる仕組み」が必要になるな。
それと、設計だけでなく、調達部門や製造部門も納期に苦労している。このままの調子で受注の都度、出図をしているようでは顧客の要求納期に間に合わなくなってしまうぞ……。何とか小規模ながらも作り置きを前提に量産対応できないだろうか。
だけど、装置全てを作り置きしてしまうと、顧客によっては装置の改造が必要になるケースもあるし、ムダになる部品(余剰品)が生じるかもしれないな……。
やはり、当社もマスカスタマイゼーションを考えてもよさそうだ。でも、そのためには設計データの構造も適応させていかないといけないぞ。
総組立図に対して、その配下にあるユニット構成を正しく表現するには、機械構成を示す一覧表が必要になります。これは3D CAD上で設計ツリーとして表現されます。また、それぞれのユニットが正しく部品表に落とし込まれていることも重要です。
このような状態で設計情報が管理され、設計者も装置構成や部品構成を理解できているのであれば、PDMシステムを用いて流用設計の構造化を行うことは可能です。
さて、構成に関するAさんの考えはどうでしょうか?
Aさんの考え:
次のような構成はどうだろうか?
- どの顧客向けでも共通に使われているユニット
- 特定の顧客のみに使用されているユニット
- 顧客ごとに変更する部品があるユニット
(ア)顧客によって変更する部品を含まない構成
(イ)顧客によって変更される部品
この構成にすれば、1.と3.(ア)の部分だけを作り置きすれば、どんな顧客にも対応できそうだ!!
「共通部」と「変動部」を正しく捉えることが流用設計の構造化には必要です。X社のようにユニット構成などが正しく管理できているのであれば、流用設計の構造化は実現可能です。
ここでポイントになるのは、3D CADデータ構成による階層です。この階層を深くし過ぎると、多くのサブアセンブリも存在することになります。そのため、ユニットから見て3階層くらいまでが妥当だと筆者は考えます。PDMシステムの運用では3D CADの階層についても再考する必要があります。
流用設計を実現可能にする3D CADデータ構成として重要となるのが、この構造です。Aさんは、装置構成を固定部と変動部に分けることができました。これらの設計情報をPDMシステムで管理します。
流用設計のためのPDMシステムの構成イメージ
構造について理解できたAさんは、流用設計のためのPDMシステムの構成イメージを立ててみました。
設計者は、PDMシステムに格納されているアセンブリやサブアセンブリを流用し、新規部品を設計した上でアセンブリを再構築する、という流れをとります。実績があり、承認されている流用元の設計内容は、設計品質の面で信頼できるものです。X社もこの構成とPDMシステムの特性により、当初の課題を解決できるはずです。
今回は、基本的な例として、顧客仕様による構成を考えてみました。最も重要なことは、流用設計による構造を正しく理解することです。PDMシステムによる管理は進み、さらにはマスカスタマイゼーションやモジュール化へとつながっていくことでしょう。
次回は「PDMだけを考えていてはPDM運用はうまくいかない」をテーマに、本連載の総まとめをお届けします。お楽しみに! (次回に続く)
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