1枚で複数通信キャリア利用可能、障害発生時は自動で切り替えを行うIoT向けSIM開発:製造業IoT
NTTコミュニケーションズは1枚のSIMで複数のキャリアを利用でき、一方のキャリアで障害などが発生した際にSIMで自律的にもう一方のキャリアに接続先を切り替えることができる「Active Multi-access SIM」の開発に成功したことを発表した。
NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は2023年3月28日、東京都内およびオンラインで記者会見を開き、1枚のSIMで複数のキャリアを利用でき、一方のキャリアで障害などが発生した際にSIMで自律的にもう一方のキャリアに接続先を切り替えることができる「Active Multi-access SIM」の開発に成功したことを発表した。
工場やプラントなどは多数の端末が複数箇所にあり、端末側で自動的に切り替える必要があった。SIM内のアプリケーションによって自律的な監視、切り替え、切り戻しができるのは日本初であり、特許を出願中という。
NTT Comのアプレット領域分割技術を活用、無料トライアルも実施へ
近年、IoT(モノのインターネット)機器を活用したサービスが飛躍的に拡大しており、回線トラブルなどに備えて複数のキャリアを利用した冗長化のニーズが高まっていた。2022年7月に起きたKDDIの大規模な通信障害は、携帯電話のみならず幅広い業界に影響を与えたことからも、改めてIoT機器の普及を印象付けた。
NTT Comではこれまでに、ローミング方式により日本で複数のキャリアに接続できるモバイルデータ通信サービス「IoT Connect Mobile Type S」(TSLプロファイル)や、2枚のSIMを搭載でき、メイン回線とサブ回線に使い分けることができる「ドコモ IoT マネージドサービス」におけるDual SIM対応ゲートウェイを用いたモバイル回線冗長化ソリューションを展開してきた。
ただ、ローミング方式では監視、切り替え動作を追加するために端末を改修しなければならず、電波圏内だがIP通信だけできないといった場合は利用が継続できなかった。また、Dual SIM方式は対応可能な特定の端末を用いる必要があった。
今回、NTT Comが開発したSIMは1枚で2つのキャリアに接続することが可能になった。具体的には、SIMに組み込まれたアプレットがインターネット上のホストに対して定期的に通信を行って通信状況を確認し、メインのキャリアの通信障害を検知した際にはSIM内のキャリア接続情報を書き換え、予備の通信キャリアに自動的に切り替えることができる。
そして一定時間経過後に、メインのキャリアへの切り替えを自動で行う。端末は通信プロファイル領域に記録された情報を参照してネットワークへ接続するため、接続情報の書き換えによってネットワークを遷移することができる。
開発に当たってはNTT Comの独自技術であるアプレット領域分割技術を活用した。アプレット領域分割技術とは、SIM内において通信に必要となる情報を書き込む通信プロファイル領域と、アプリケーションなど通信以外の情報を書き込むアプレット領域を完全に分離して管理する技術であり、通信以外の機能をパートナー企業などが独自に実装できる。アプレット領域分割技術は特許を出願中だ。
これまで両領域を分離して管理する技術はなかったため、eSIMを提供する事業者は通信以外の機能を提供するサービス提供者が通信プロファイル領域にアクセスすることを防ぐため、共通の鍵で両領域を管理していた。NTT Comの独自技術により両領域を分離し、アプレット領域のみにアクセスできる鍵の生成が可能となったため、サービス提供者でも同領域にアクセスできるようになった。
ETSI(European Telecommunications Standards Institute)や3GP(The 3rd Generation Partnership Project)で標準化された仕組みで動作するため、これらの標準に準拠したモバイル端末であれば動作可能だ。ただ、機種によっては正常に動作しない場合もあり、動作確認済み機種リストの公開なども検討している。
NTT ComではIoTサービス提供事業者らを対象に、2023年6〜9月に同SIMの無料トライアルサービスを実施する。メイン回線はドコモ、サブ回線としてKDDIのネットワークを活用する。ユーザーからのフィードバックを通して機能向上を図る。申し込みはWebサイトから可能になっている。
商用サービスの開始は2023年度内にIoT Connect Mobile Type Sにおいて予定している。IoTゲートウェイを用いず、IoTモジュールを組み込む形の監視機器やロボット、高齢者向けの見守りデバイスなどでの利用を主に想定している。IoT機器向けのサービスとなるが、スマートフォンで動作を確認できた機種もあるという。
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