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耳をふさがず音漏れは最小に、逆相で音を打ち消す新技術搭載のイヤフォン小寺信良が見た革新製品の舞台裏(25)(4/4 ページ)

NTTソノリティが「nwm MWE001」というワイヤードイヤフォンのクラウドファンディングを実施した。耳をふさがないオープン型イヤフォンでありながら、音漏れが小さいという。「逆相の音」で打ち消す「PSZ技術」が活用されているというが、これは何か。NTTソノリティの担当者に開発経緯と併せて話を聞いた。

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「耳のそばに小さいスピーカーがある」状態

――蓋を閉じたときに、イヤフォン本体のLEDがフタの窓からちょうど見えるようにデザインされてますよね。ここもうまいなぁと思ったんですが。

竹内慎太郎氏 急きょ仕様が変更になったことで、デザインもスピード感を持って対応しないといけなくなりました。バッテリーは搭載しない、基板も最小限でという中で、ここにまたケース側にステータスLEDを積むとなると、ちょっとクリティカルな問題が出そうだったんですね。


NTTソノリティ クリエイティブディレクターの竹内慎太郎氏 出所:NTTソノリティ

 そこでどうやって充電状態などのステータスをユーザーに分からせるかっていうところで、どの位置に穴を開けて、どうイヤフォンを置けばちゃんと伝わる状態になるかな、という流れで検討していったという背景があります。

 LEDを見せる位置や、穴の開け方とかもいろいろ検討したんですけど、このLEDの穴自体が左右に離れすぎていると、それぞれが独立した意味を感じそうなところがありました。そのため、なるべく中央に寄せるような形で、可能なところまで寄せて置くようにデザインしました。

――現在ワイヤードの「nwm MWE001」は、クラウドファンディングが完了してますよね。ユーザーのフィードバックもいろいろあったと思いますが。

長谷川 結構熱心なご意見をさまざまいただきました。私たちは当初テレワークをメインで訴求していたんですけど、意外なところから反響があってですね。

 面白いところでは「ASMR」。耳元でささやかれてるような感じが結構いいというお声もいただきました。

※ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response):人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よい反応や感覚

 あとはゲームですね。ゲームの世界ではレイテンシを考えると、どうしても有線を選びたいっていうことがあるんですけど、さらに耳をふさがないことで長時間やりやすいというお声もいただいています。また、ゲーム中に周りの音が聞こえるのが良いと。

 それと音楽鑑賞については低域がやっぱり弱いっていうのはありつつも、上の方からBGMが軽く流れてきてる感覚があり、用途と曲を選べばかなり良いよね、っていう声もいただいてます。

 その反面、やっぱり低域に関してはどうしても耳までの距離があるので、かなり距離減衰するため、周波数カーブほど出ていると感じてもらえてないなと思っています。今後そこはどうやって改善していくか、検討してる最中という感じですね。

――音の広がりに関しては、僕も試聴させていただいて感じました。なにかこう、単に耳を塞いでないから起こる現象ではなくて、やはり耳の外側に音源を置いていることで、これまでのイヤフォンやヘッドフォンとは違うことが起こっている、という気がするんですよね。

長谷川 正直、そこは狙い通りっていうわけじゃないんです。ただやっぱり耳をふさいでいるわけではないので、耳自体がかなり自然な状態なのは事実でして。本当に耳のそばに小さいスピーカーがあるって状態に近いと思います。

 今後立体音響であるとか、そういったところにも実は向いているっていうのがなんとなく見えてきましたので、展開として、あえてオープンな状態での立体音響っていうのも視野に入れていこうかというところですね。

 私たちとしては、この技術を使って、もうちょっとあっと言わせるヘッドフォンとかもやりたいなと思っています。その辺もまた機会があれば、ぜひご紹介したいなと。


 そもそもスピーカーというのは、平面で空気を押す装置である。正面へ向かってドンと空気を押せば、その瞬間裏側はスンと引く。表側がスンと戻れば裏側にはドンと押す。そういう原理が、正相と逆相の関係である。

 裏側にも表側と同じぐらいのエネルギーが放出されているわけだが、これをなんとか時間的なタイミングをずらして、打ち消し合わないように表側に持ってくる、あるいは裏側の音だけを消し込むのが、スピーカーの「箱」の役割である。

 複数のスピーカーを使い、位相をずらして音の指向性を変える、つまり特定方向の音を消し込むという技術は、すでにサウンドバーやサイネージ用スピーカーなどで実用化されている。だが、スピーカー1個で裏側の音を使って拡散音を消し込むというのは、スピーカーが発明されてからおよそ100年、考えた人もあったはずだが、それが成功して実用化された例はなかった。

 実際には拡散音を追いかけて消すというより、デフォルトで音は消えていて、その消し残った音をユーザーに聴かせる、という考え方である。デジタルプロセッシングを使わず、超アナログ技術だけで実現している。対談内でも言及されていた低域不足については、専用アプリ「nwm Connect」でイコライジングが可能になっているようだ。

 「音漏れしない」は装着している自分には聞こえないので、その効果は2人以上いないと分からないという、ある種の体験商品である。また「逆相を使わない状態」が作れないため、ON・OFFのような比較ができないという訴求の難しさがある。だが今後、実機が広く出回って体験機会が増えていくことで、徐々に認知が高まっていく技術だろう。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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