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Z世代の心に響け、ソニーの“穴あき”イヤフォン「LinkBuds」に見る音の未来小寺信良が見た革新製品の舞台裏(21)(1/4 ページ)

ソニーが2022年2月に発売したイヤフォン「LinkBuds」は、中央部に穴が開いたリング型ドライバーを搭載している。あえて穴を空けることで、耳をふさがず、自然な形で外音を取り入れるという技術的工夫だ。これまで「遮音」を本流とした製品展開を進めてきたソニーだが、LinkBudsにはこれまでの一歩先を行くという、同社の未来に向けた思いが表れている。

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 少し前までイヤフォンと言えば、完全ワイヤレス、かつ、ノイズキャンセリング機能を搭載したモデルが主力商品であった。街や公共交通機関が発する騒音を低減して、再生中の音楽に没入し、ちゃんと楽しめるようにする。こうしたイヤフォンは技術的な成熟に加えて、多くのメーカーが市場に参入したこともあり、ジャンル全体の平均価格も低下し、入手しやすくなっている。

 しかしこの2年で、様相は少しずつ変わりつつある。仕事でリモートワークが解禁された人を中心に、「むしろ周囲の音が聴き取れた方がいい」「マイクの音質が気になる」など、ニーズが少しずつ分散し始めているのだ。骨伝導ワイヤレスイヤフォンが注目を集めたり、売上ランキング上位にマイク付きヘッドセットが入ってきたり、といった市場の変化も既に見られている。

 ソニーはコンシューマー向け製品のノイズキャンセリング技術開発を早くから手掛けてきた企業の1つだ。1995年にはすでにインイヤー型の「MDR-NC10」と、オーバーヘッド型の「MDR-NC20」を世に送り出した。実に27年前のことである。それ以来、ソニーのイヤフォン/ヘッドフォンは一部の開放型の製品を除き、外部の音を「遮音する」方向へと歩みを進めてきた。

 この中で、2022年2月25日にソニーが発売したイヤフォン「LinkBuds」は新機軸を打ち出している。ドライバの中心部分に穴が空いており、装着しながらも周囲の音がダイレクトに聞こえてくるのである。


2022年2月25日から発売した「LinkBuds」[クリックして拡大] 出所:ソニー

 実のところ、「耳をふさがない」というアプローチを明確に打ち出したソニー関連の製品は、同社がスピンアウトしたambieの「ambie sound earcuffs」や、旧ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia Ear Duo」など以前から存在はしていた。ただ、いずれもソニーのヘッドフォン/イヤフォン製品の「本流」から外した形で世に出してきた、という経緯がある。

 2021年4月、ソニーは大規模な組織再編を行い、エレクトロニクス事業に関する4社を新「ソニー株式会社」の元へ統合した。その新生ソニーからリリースされたLinkBudsは、これまでのソニー製イヤフォンの本流から本格的に分岐していく、最初の一歩になるのかな、と筆者は感じている。

 「遮音」から「オープン」へと向かう、その狙いは何なのか。LinkBudsを世に送り出したソニー ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品企画部 統括部長の伊藤博史氏にお話を伺った。

「ながら作業」のZ世代のニーズに応える

―― これまでソニーはノイズキャンセリングに非常に力を入れてきたメーカーだと認識していたんですけど、LinkBudsを見るとオープン型にもアプローチを始めたのかなと。そのきっかけをお伺いできますか。

伊藤博史氏(以下、伊藤) きっかけは2つありまして、1つはターゲットにするユーザー層に合わせた変化です。


ソニー株式会社 モバイル商品企画部 統括部長の伊藤博史氏 出所:ソニー

 当社のイヤフォン/ヘッドフォン製品は、若者層、特にZ世代へのアプローチがまだまだ弱いという認識しています。そこで、世界中のZ世代の生活スタイルをいろいろ調べたところ、かなり多くの方が「ながら作業」でイヤフォン/ヘッドフォンを使っていると分かりました。スマートフォンでゲームをしながら、Webブラウジングをしながら、動画を見ながら、好きな音楽を聞きながら何か別のことをしているのです。イヤフォン/ヘッドフォンの使用時間も自然と非常に長いものになります。

 ノイズキャンセリングは当社が一番誇る技術ではありますが、これらの製品はかなり集中して音楽を楽しむ、聞き終わったら外す、というライフスタイルで活躍します。一方で、Z世代の若者の皆さんは少し違って、「常に音楽と接していたい」というニーズがあるのでは、と推測しました。

 もう1つは技術的な面で、中央部が空いたリング型のドライバーユニット「リングドライバー」の開発のめどが立ったことがあります。周りの音を拾うにはオープン型にする必要がありますが、それだとどうしても音圧や音質が物足りなくなるなど、両立が難しい面がありました。そこを打破したいという思いが以前からあり、長い時間をかけてリングドライバーを開発していました。

 その技術的めどがたったこと、そして、技術が(Z世代の)ニーズを満たせるということで、市場投入のタイミングが熟したというのが背景にあります。

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