トヨタ自動車は2023年3月18日、スーパー耐久シリーズへの参戦予定を発表した。
液体水素を燃料とする「水素エンジンカローラ」は第1戦の鈴鹿大会(2023年3月18〜19日)を欠場したが、富士24時間レース(2023年5月26〜28日)の出場に向けて引き続き開発を進める。カーボンニュートラル燃料を使用する「GR86」や、ガソリンを使用する同モデルからなる3台体制で臨む。
モータースポーツを通して、水素やカーボンニュートラル燃料のサプライチェーン構築やクルマで使う選択肢を広げる取り組みを加速させる。
水素エンジンカローラのこれまで
今回、水素エンジンカローラの燃料となる水素が気体から液体に変わるため、燃料供給装置を液体水素向けに変更する。エンジン自体は従来と同様だ。
液体水素は体積当たりのエネルギー密度が向上できる。富士24時間レースに向けて、満充填からの走行距離はこれまでの約2倍、充填時間は1分半を目標とする。また、年間を通じてエンジン性能や走行距離、充填時間の改善を進める。ただ、液体水素は充填や貯蔵の際に−253℃以下に温度を保つ必要があり、低温環境に対応した燃料ポンプの技術開発が必要になる。自然に気化する水素への対応、車載用液体水素タンクの法規なども課題となる。
気体水素は液体水素よりもシステム構成がシンプルになるなど、気体と液体で水素には異なるメリットや課題がある。特性を生かした使い方を確立するため、気体水素と液体水素の両方で開発を進めていく。
水素エンジンカローラは、2021年5月にスーパー耐久シリーズに初参戦して以来、2年間にわたって出力やトルク、走行距離、充填時間などを改良してきた。今シーズンは燃料の水素を気体から液体に変更して参戦することが目標だったが、第1戦の鈴鹿大会に向けた2023年3月8日のテスト走行中に車両火災に見舞われた。
車両火災の要因は、エンジンルームの気体水素配管から水素が漏れたことだった。燃料の水素を気体から液体に変更したことが直接の原因ではなく、車両の振動による配管結合部のゆるみが水素漏れを引き起こした。配管の結合部がエンジン近辺にあったため、漏れた水素が熱されて引火したという。水素リークセンサーによるフェイルセーフが正常に作動したことで大幅な延焼は回避した。水素漏れの原因となった配管の設計を見直すことで、より安全な車両を開発するとしている。
新たに9社が参加
水素エンジンカローラの液体水素関連技術には新たに参加する9社を含め39社が関わっている。水素エンジンカローラの燃料となる液体水素は、川崎重工が建造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」によって2022年2月に豪州から輸送された褐炭水素の一部を使用する。
サーキットに設ける移動式の液化水素ステーションは岩谷産業が担当する。液体水素は圧縮気体水素をつくるために必要な圧縮機や水素を冷却するプレクーラーなどの設備が不要になるため、ステーション自体を気体水素と比べて4分の1程度に小型化できる。また、ガソリン車と同じようにピットエリア内で燃料を充填できる。充填時に昇圧の必要がないため、複数の車両に連続して充填することもできる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トヨタの水素エンジン車が走った「スーパー耐久」ってどんなレース?
S耐(エスタイ)と呼ばれるレースカテゴリーが日本に存在する。正式名称は「スーパー耐久シリーズ」。「スーパーGT」「スーパーフォーミュラ」と比べるとマイナー感は否めないが、市販車をベースにしたレースマシンで戦う国内最高峰の耐久レースシリーズとなっている。 - トヨタ自動車で社長交代、新任の佐藤氏は53歳
トヨタ自動車は2023年4月1日付の役員人事を発表した。 - 大型商用車に水素エンジン、トヨタいすゞ日野デンソーが企画と基礎研究をスタート
いすゞ自動車、デンソー、トヨタ自動車、日野自動車、Commercial Japan Partnership Technologiesの5社は2022年7月8日、商用車向けの水素エンジンの企画と基礎研究を開始したと発表した。 - スクーター、子ども用のカート、ラジコンカー……小さな水素タンクを思い返す
さて、今週末は2022年スーパー耐久シリーズの第2戦となる富士24時間耐久レースが開催されます。バイオディーゼルエンジンや水素エンジンなどが市販車に近い状態で走るので、カーボンニュートラルに向けた各チームの試みが見どころの1つではないでしょうか。 - ウーブンシティー隣接地でCO2フリー水素製造、ENEOSとトヨタが共同開発契約
ENEOSは2022年3月23日、トヨタ自動車が建設を進める「ウーブンシティー」において、CO2フリー水素の製造と利用を推進するための共同開発契約を、トヨタ自動車との間で締結したと発表した。2024〜2025年に予定するウーブンシティーの開所前に、隣接地での水素ステーション運営開始を計画する。 - バイオ燃料でマツダスバルトヨタがスーパー耐久参戦、水素エンジンは二輪4社の共同開発へ
川崎重工(カワサキ)、SUBARU(スバル)、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機は2021年11月13日、会見を開き、代替燃料を使ったモータースポーツ活動や共同開発を行うと発表した。 - トヨタが水素エンジンをスーパー耐久シリーズに提供、2021年5月から走る
トヨタ自動車は2021年4月22日、水素エンジンを開発すると発表した。圧縮気体水素を燃料として使用する排気量1.6l(リットル)の直列3気筒インタークーラーターボエンジンをレーシングチーム「ORC ROOKIE Racing」の参戦車両向けに投入する。