シアン光やマゼンダ光でも正確に色再現、パナソニックの有機CMOSイメージセンサー:組み込み開発ニュース
パナソニック ホールディングス、開発中の有機CMOSイメージセンサーによってあらゆる種類の光源下で良好な色再現が可能になると発表した。
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は2023年3月17日、開発中の有機CMOSイメージセンサーによってあらゆる種類の光源下で良好な色再現が可能になると発表した。有機CMOSイメージセンサーの高飽和特性やグローバルシャッタ機能といった特徴と併せて、光源の種類や照度、速度の変化に強い、ロバスト性の高い撮像システムの構築に貢献していきたい考え。
一般的なシリコンイメージセンサーは、RGGBの4画素単位で繰り返し配列する「ベイヤ配列」と呼ばれるカラーフィルターを採用しており、緑、赤、青の色分離性能が十分ではない。このため、シアン光やマゼンタ光のような特定波長にピークをもつような光源下では、正確な色再現や色の認識/判定が困難という課題があった。
今回の色再現技術は、有機CMOSイメージセンサーが光を電気信号に変換する光電変換部を有機薄膜で、信号電荷の蓄積および読み出しを行う機能を下層の回路部で、それぞれ完全独立に行う構成となっているという特徴を基にして、「光電変換膜薄膜化技術」「電気的画素分離技術」「光の透過抑制構造」によって実現したとする。
まず、「光電変換膜薄膜化技術」は、光吸収係数がシリコンと比較し最大約10倍高い有機薄膜の開発により、光の吸収に必要な距離を短くすることで実現した。シリコンイメージセンサーの光電変換部であるシリコンフォトダイオードと比べて有機膜を薄く設計できるので、混色の要因である隣接画素からの斜入射光が原理的に低減されるという。
「電気的画素分離技術」は、画素の境界部に電荷排出用の電極を設けることで、混色や解像度低下の一因になる画素境界部の入射光による信号電荷を排出し、隣接画素からの信号電荷の侵入を抑制する構造によって実現した。従来のシリコンイメージセンサーでは、画素の境界部に遮光層を設けて斜入射光を防いでいるが、遮光層で反射した光が迷光となって隣接画素に侵入したり、遮光層を回折して光が回り込んで侵入したりといった課題があったが、電荷排出電極によって解決した。
「光の透過抑制構造」は、有機薄膜と画素電極/電荷排出電極がカラーフィルターの下部にある有機CMOSイメージセンサーの構造に基づくものだ。入射した光を信号電荷にするイメージセンサーの光電変換部では、一部の光が光電変換されず透過して混色の一因になる。特に青色光に比べて長波長でエネルギーの低い赤色光は透過しやすく、影響が大きい。例えば、シリコンイメージセンサーの場合、赤色光側の波長600nmの光は約20%透過してしまう。しかし、有機CMOSイメージセンサーの場合、光電変換部である有機薄膜の下部には画素電極と電荷排出電極があり、有機薄膜で吸収しきれなかった入射光は電極で吸収もしくは反射して再度有機薄膜を通過することで吸収される。また、画素電極と電荷排出用電極の間はわずかであるため配線層に光が透過しにくい。
この色再現技術を使えば、マゼンタ光を使用する植物工場のようなイメージセンサーにとって本来の色の再現が難しい環境下でも、正確な色の再現や検査が可能になる。また、生体のような微細な色変化をもつ物質の正確な色再現によって肌状態の管理や健康状態のモニタリング、青果の検査などへの応用も期待できるとしている。
なお今回の技術の一部は、2023年3月15日〜16日に英国ロンドンで開催された国際会議「Image Sensors Europe 2023」で発表された。
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