小売業のAI活用はPoCの壁を超えつつあるのか、レジなし店舗にも市場拡大の兆し:スマートリテール(2/2 ページ)
NVIDIAの日本法人であるエヌビディアが小売業におけるAIの活用動向について説明。小売業でのAI活用は導入コストが大きな課題になっていたが、2022年に入ってからいわゆるPoC(概念実証)の壁を超える事例が生まれつつあるという。
期待広がるレジなし店舗、「Jetson Orin」が導入コストの課題解決に
小売業における人材不足への対応や人件費削減という観点で注目を集めているのがレジなし店舗だ。中根氏は「商品の補充などを含めて無人店舗の実現はまだ難しいが、レジなし店舗には大きなメリットがある。単なる人件費削減だけでなく、先述したスキャンミスや万引き防止も同時に実現できる」と強調する。
このレジなし店舗の技術で業界をけん引しているのがNVIDIAと協業するAiFiだ。フランスのカルフール(Carrefour)への導入をはじめ採用を拡大している。日本国内でも、セキュアとAiFiが2023年2月に新宿住友ビル地下1階の店舗における実証実験を発表している。「現時点で世界全体で約600店のAIベースのレジなし店舗が展開されており、その多くでNVIDIAのAIソリューションが活用されているとみている」(中根氏)という。
また、インテリジェントストアやインテリジェントQSRにおけるカメラを用いた映像分析ではハードウェアのコストが導入の大きな壁になっていた。これは、店舗の広さに応じて多数のカメラを設置しなければならず、これらのカメラ映像を処理する複数のハードウェアも必要になるためだ。しかし、最新の組み込みAIコンピュータである「Jetson Orin」がこの状況を変える可能性が出てきた。国内ベンダーのAWLは、ドラッグストアのサツドラの店舗における10台以上のカメラ映像を用いたAIアプリケーションの処理を1台のJetson Orinで対応した事例を報告している。中根氏は「店舗面積に制限がある日本や東南アジアでは、大幅に性能向上したJetson Orinの活用が期待できる」と述べる。
デジタルツインの活用も視野に
インテリジェントサプライチェーンにおけるAI活用の事例としては、需要予測、スマート倉庫、ラストマイル配送が挙げられる。
ウォルマートは、AIによって日々の需要予測の改善に努めている。世界最大の小売事業者として知られるウォルマートだが、毎日5億件を超える店舗ごとのアイテムの組み合わせに対する需要予測の精度をAIによって3ポイント向上したという。ドミノピザも、世界全体で約1万7000の店舗から年間30億枚以上のピザを配達しており、その需要予測にAIを活用している。
スマート倉庫に取り組んでいるのが、インテリジェントストアの事例にも出てきたクローガーだ。オカド(Ocado Group)との提携により20カ所のスマート倉庫を導入する計画だ。オカドは、イオンとの間で日本国内における独占パートナーシップ契約を結んだことも知られている。
この他にも、Telexistenceが展開するコンビニエンスストアのバックヤードで飲料を陳列するロボット「TX SCARA」にも「Jetson」が利用されている。TX SCARAは2022年8月からファミリーマートの主要都市圏の300店舗への展開が始まっている。
Eコマースが重視されるオムニチャネルマネジメントにおいて、今後重要な役割を果たすと見られているのが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)とも連携するデジタルツインである。NVIDIAのOMNIVERSEは、デジタルツインの産業活用で重要な役割を果たすことから大きな注目を集めている。
例えば、ホームセンターを展開するロウズ(Lowe's)は店舗レイアウトの改善やより良いショッピング体験のためにOMNIVERSEを活用している。クローガーも、OMNIVERSEによるシミューレションで店舗レイアウトや作業プロセス、顧客のショッピング体験の最適化に取り組んでいる。
中根氏は「日本国内で小売業向けのAI活用を提案してきたが、これまでなかなかPoCの壁を超えられないのが実情だった。しかし、2020年は0件、2021年にやっと1件というところが、2022年は5件ほどにまで増えており、今後急速に伸びてくる手応えがある」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ローソンがレジレス店舗で発見した、「待機時間ゼロ」が生む2つの価値
ローソンは2021年8月20日、小売りや飲食業界のDX戦略や事例を紹介するイベントで、同社が実証実験中のレジレス店舗をテーマとした講演を行った。 - 日本版の「Amazon Go」は普及するのか、問われるAIカメラの“価値”と“コスト”
リテール分野にAIを活用する動きが広まっている。その中でも本稿は、AIカメラを用いた無人決済システム実現に向けた取り組みを取り上げ、2020年のニュースを振り返りつつ今後の展開を考えていく。 - 1台で月額1万円のAIカメラを96台導入するには
パナソニックは2019年9月11日、画像処理をエッジコンピューティングで行う「Vieurekaプラットフォーム」を導入した小売店舗を報道向けに公開した。納入先はサツドラホールディングスが運営するドラッグストア「サッポロドラッグストアー」(以下サツドラ)で、札幌市内の1店舗にVieurekaカメラ96台を設置した。この他にも2店舗でカメラを試験的に導入している。 - 無人店舗の現実解はどこに、「リテールテックJAPAN 2019」に見る現在地
人手不足が大きな問題になる中で注目を集める「無人店舗」。「リテールテックJAPAN 2019」では、近未来の店舗の姿という位置付けで、各社が無人店舗やレジレスをイメージした展示を行った。 - NVIDIAがAda LovelaceアーキテクチャでRTXを第3世代に、Jetson NanoもOrin世代へ
NVIDIAは、ユーザーイベント「GTC September 2022」の基調講演において、新たなGPUアーキテクチャ「Ada Lovelaceアーキテクチャ」を発表するとともに、同アーキテクチャを採用したプロフェッショナル/コンシューマー向けGPUプラットフォーム「RTX」の第3世代品を投入することを明らかにした。 - 飲料陳列棚の補充業務をするAIロボット、大手コンビニへ導入開始
Telexistenceは、AIロボット「TX SCARA」の国内量産を開始した。2022年8月下旬から、ファミリーマートの主要都市内300店舗に順次導入し、人間の代わりに冷蔵庫内の飲料補充業務をする。