電池の「SOC」「SOH」は何を示している?:今こそ知りたい電池のあれこれ(19)(3/3 ページ)
電池の性能を「客観的」に示すため、さまざまな指標が用いられます。その中でも代表的なのが「SOC」と「SOH」です。今回はこれらの指標について、基本的な内容から、意外と見落とされがちな要素まで、まとめて解説していきたいと思います。
充放電効率、SOF……他にも指標
電池の性能、特に劣化状態を客観的に数値で示すことができる指標には「充放電効率」というものもあります。充放電効率は、充電した電池容量に対し、実際に放電できた容量が占める割合を示した指標です。正常なリチウムイオン電池であれば電流量(Ah)で考えた場合の充放電効率はほぼ100%となりますが、劣化の進行程度によっては実際に電池から取り出せる放電容量が減少し、充放電効率が低下することとなります。
ここで注意すべきなのは、電池が劣化することで「充放電効率の低下」=「充電容量と放電容量の差の拡大」が起こり得るという点です。先ほど「SOH」は「初期の電池容量を100%とした際に劣化時の容量が占める割合」であると説明しました。つまり、この「初期の電池容量」というのが「充電容量」なのか、それとも「放電容量」なのか、そしてSOH算出時の「充放電効率」が何%なのかという前提条件の扱い方によって「SOH」の値が示す意味が変わってくるということです。
こういった点からも、単にSOHの値だけで電池の状態を判断するのが難しいということがご理解いただけるかと思います。
その他にも「SOC」や「SOH」と比べるとあまり聞きなじみがないかもしれませんが、類似した名称の「SOF」という指標もあります。SOFは「State of Function」の略で、電池の最大充放電電流または電力といった入出力特性を表す指標です。SOFから判断できる入出力特性の低下は、電池の内部抵抗の増大で説明することが可能ですが、このSOFについても必ずしも電池の容量劣化(=SOHの低下)と一致するとは限らない点には注意が必要です。
また、ガス発生などによる電池の膨らみを測定し、初期状態と電池の厚みを比較するというのも「劣化状態を客観的に数値で示す」という意味では、1つの指標や判断基準といえるかもしれません。
日本カーリット受託試験部ではこのような数々の指標として用いることができる値を計測することで、受託試験という形で電池業界に貢献できるよう日々取り組んでいます。
今回は電池の性能や劣化状態を客観的に数字で判断するために必要な各種指標について、基本的な内容からリチウムイオン電池の「メモリ効果」や「SOHが示すものは何か?」といった意外と見落とされがちな要素までをまとめてみました。
今回の記事をまとめていく中で、電池の「劣化」というものの取扱いの難しさをあらためて感じました。昨今、EVや再生可能エネルギー、蓄電技術などに注目が集まることで、各メディアやSNSでも電池に関する内容を目にする機会が増えました。私自身、こういったコラムの執筆や雑誌の取材、セミナーなどでお話しする機会が増えており、大変ありがたい限りです。
しかしそういった中、電池の「劣化」という言葉のもつ意味の曖昧さ、「劣化」という概念を説明に用いることの難しさを実感することもまた、同じく増えたように感じています。次回は、そういった所感を整理し、分かるようで分からない電池の「劣化」とは何なのかをあらためて考えていきたいと思います。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
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▼安全性評価試験(電池)
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