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インダストリー5.0のデータ共有ネットワーク、GAIA-XやCatena-Xがもたらす革新インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(3)(8/8 ページ)

インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説する。第3回はインダストリー5.0においてキーコンセプトとなってきているGAIA-Xや、Catena-Xなどのデータ共有ネットワークの動向について紹介する。

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欧州企業も最初はデータ共有が苦手だった

 ここまで欧州を中心にデータ共有の取り組みを紹介してきたが「欧州企業はもともと競争/協調領域の振り分けがうまく、日本と構造が異なるのでマネすることはできない」と感じる人もいるかもしれない。しかし、欧州勢もIDSAの創設期から試行錯誤の末に、多くの失敗や苦労を経て今の姿がある。

 IDSAが生まれたころは、日本と同じく欧州勢もどのデータが秘匿必須で、どのデータを共有すべきかの振り分けが進んでおらず、データ共有に関する懸念や躊躇(ちゅうちょ)があった。その中で、発注者やサプライヤー間でのFAXやメールのやりとりを効率化するといった企業の秘匿情報に踏み込まない協調領域から徐々に共有を進め、そこから範囲を拡大していったのだ。

 データ共有の議論を日本で進めていく上でも一足飛びでは実現しない。CO2モニタリングはじめとした規制としてやらなければならない領域や、秘匿/競争力の源泉ではない部分の協調領域から進め、そこからさらに踏み込み、競争力の源泉につながる競争領域でどのようにデータ共有ができるのかを議論していく流れだ。データ共有のやり方としても、欧州では、まずは2社間の共有から成功体験を積み、そこから徐々に複数企業間へ広げるやり方を取っている場合が多い。重要なのは「なぜデータ共有をしなければならないのか」「するとどんなメリットがあるのか」といった企業のインセンティブ設計である。これらデータ共有を企業経営に活用する「文化」をステップバイステップで構築していくことが求められる。

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図22:日本に求められる政策的動き[クリックで拡大] 出所:筆者作成

データ共有で勝つには新規市場で先行して進める方法も

 これらのデータ連携の取り組みを進めていくには、東南アジアなどの新興国で先に進め、その動きを日本に還流させる動きも一つの手だろう。日本においては国内市場の過度なライバル意識や、領域の重なりなどから同業も含めた他社とのデータ連携に抵抗感を示すケースが多い。今までの業界横断連携が日本ではなかなか進まなかった背景はここにある。

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図22:アジアなど新興国からのデータ連携展開の有用性[クリックで拡大] 出所:筆者作成

 しかし、新興国市場では、国内では競合としてしのぎを削っている企業間が協力した方が都合が良いケースも存在する。例えば、サプライチェーンなどが整備されていないことからデータ連携をせざるを得ないような場合が考えられる。東南アジアや、インドなどアジア各国でのデータ共有の仕組みづくりを、日本の産学官をあげて取り組み、そこから日本へ還流させデータ共有の取り組みを加速することが重要ではないだろうか。日本はスピード感を持った仲間作りを従来は苦手としてきたが、先述したように他国から進める順序の転換により、しがらみのない形で日本としてのデータ共有の産業イニシアチブの在り方を構築していくのも有効ではないだろうか。

 日本は従来、ケイレツをはじめとした企業を超えた連携や、三方よし、CSRなど、社会や環境とビジネスの両立に強みを持ってきた。これらの強みをインダストリー5.0や、データ共有時代に競争力に転換し、再びグローバルで存在感を発揮することを期待したい。

≫連載「インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略」の目次

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筆者紹介

小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

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 日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。

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「メタ産業革命」(日経BP)

 専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

 近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

  • 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp

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