AIを用いてプラントを自動運転する機能を提供開始、操作効率化でコスト低減効果も:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
NTTコミュニケーションズは横河ソリューションサービスとともに、日本初となる、運転員の操作を学習したAIを用いてプラントの自動運転を実現する「オートパイロット」の提供を開始すると発表した。
化学プラントでの実用性評価で人の運転を超える精度を確認
オートパイロットをJNC石油化学の市原製造所に導入し、実用性を評価して運転員を超える精度を確認した。
具体的には、2022年12月15日から16日にかけて、オートパイロットによる24時間の自動運転を実施した。自動再学習には「半年以上前から蓄積されたデータ」(伊藤氏)を用いた。その結果と、運転員が操作した、自動運転時と運転条件が近い前後5日間との比較を行うと、ある指標値と目標値の差の平均および指標値の運転中の安定度合いにおいて、自動運転時がいずれも運転員操作時を上回った。
この結果について伊藤氏は、「AIと人とでは操作頻度が圧倒的に違う。AIが精度として人を越えているわけではないが、人では難しい頻度で操作した結果、高い安定性につながったのではないかと推察している」と評価する。
ただ、オートパイロットといっても、運転員をAIに置き換えるのではなく、人とAIの協働を前提としている。伊藤氏も「当面の間、人を削減するという効果の期待は難しい」と話す。過去の運転員の操作から学ぶことはできても、自律的に学習して良い運転方法を発見することはできない。未知の状況に陥った際には、その状況における人の操作を追加で学習する必要がある。つまり、そのような技能を持った運転員の存在が欠かせない。
AIによる完全な自動運転を目指す企業もあるが、「われわれも以前取り組んでいたが、AIモデルを作る時の期間やコストがどうしてもかかってしまう。今回は幅広いユーザーに提供できるような仕組みを目指して模倣学習を用いたAIに取り組んだ」(伊藤氏)。
将来的には、同じような問題を抱える他産業への展開も模索する。「日本の農業では品種改良が頻繁に行われており、品種が違えば栽培方法も異なってくる。季節変動があり、海外の安い農作物の影響を受けている点も化学業界と似ている。今回のソリューションを適用できれば、日本の農家が持つ高度な技能をAIに凝縮させ、高精度、高頻度な自動運転によって高品質かつ低コストで安定生産できると思っている」(伊藤氏)。
NTTコミュニケーションズでは主にAIの機能の開発を担う。実際の構築、販売は横河ソリューションサービスが行う。両社は「オートパイロットがもたらすプラントの稼働とコストの削減」をテーマとしてユーザー向けのオンラインセミナーを2023年2月17日に開催する予定だ。まずは、先行して検討している6社を皮切りに、2023年度中に数十社への導入を目指している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 強化学習AIで化学プラントの35日間自律制御に成功、完全自律工場へ道筋
横河電機とJSRは2022年3月22日、化学プラントをAI(人工知能)によって自律制御する共同実証実験に成功したと発表した。蒸留塔において35日間の連続稼働を行い、品質確保と省エネルギーのバランスを取った最適稼働を実現した。「化学プラントにおいて、AIが操作量を直接変更するものとしては世界で初めての成功」(横河電機調べ)だとしている。 - エッジデバイスを遠隔管理するIoT基盤、NTTコムが「SDPF Edge」提供開始
NTTコミュニケーションズは2022年1月18日、データ利活用基盤である「Smart Data Platform」において、新たにエッジコンピューティングサービス「SDPF Edge」を提供開始すると発表した。SDPFのサービスなどをオンプレミス環境で実行可能にする。 - エネルギー供給と生産を連携、IoTとAIを活用する高度EMSの実証実験
横河電機と横河ソリューションサービスは、NTTコミュニケーションズと共同で、製造業における生産技術の向上を目指し、各社のIoTとAI技術を連携させた高度EMSを構築する実証実験を開始した。 - プラント制御値をAIで自動探索、熟練者と結果一致し有効性を確認
NTTコミュニケーションズは、横河電機、横河ソリューションサービスと連携して開発した「プラント向けデジタルツイン」を用いて、化学プラントの改善に有効な制御パラメータ値を自動探索することに成功した。 - 化学プラントでのAI活用、三井化学は15年前から取り組んでいた
NTTコミュニケーションズの「IoT×AI 最新動向勉強会」に、三井化学の十河信二氏が登壇。同社の化学プラントにおけるIoTやAIの活用について説明した。ディープラーニングによる化学プラントの品質予測の共同研究結果を紹介し「15年前に当社が取り組んだニューラルネットワーク技術は確実に進化している」と述べた。 - AIでプラント運転状態を自動解析、予兆診断サービスを開始
日立製作所は、石油化学プラント向けの予兆診断サービス「ARTiMo」の提供を開始した。AI(人工知能)によって石油化学プラントの運転状態を自動的に分類・解析し、故障の前兆である状態変化や異常発生をリアルタイムに検知する。