「アップサイクル」に求められるもの、そして「リープサイクル」が照らす未来:環デザインとリープサイクル(7)(4/4 ページ)
連載第7回では「アップサイクル」の在り方を見直し、真に求められる方向性を示しつつ、さらにその先の未来を見据えたアプローチである「リープサイクル」の考え方について詳しく紹介する。
いくつかの時間軸と異なる速度を包含するデザイン
「今から何十年間も使われるかもしれない」ことを見込んだ、未来へ向けた循環型モノづくり(例えば、公園の遊具をマテリアルリサイクルによって作ることを考えてみよう)に廃棄物を使うというのは、ある意味「この時代(現代)」の物質文明の記録としての意味も持つ。例えば50年後、もしプラスチックというものが世の中からなくなっていたとしたら、「2023年にはこのような種類のプラスチックが普及していたという事実」は、ある街の公園のベンチ(プラスチックの塊)のカタチとして残されている、というように――。
リープサイクルは、“資源循環型デザイン”という、どちらかといえば、過去の清算(大量廃棄文明からの脱却)や、現在喫緊の課題(地球温暖化問題)に対する社会課題解決的なニュアンスが色濃い分野に、より積極的に「未来洞察」や「未来思索」を招き入れていこうとする概念として広めていきたい。
ここでいう「未来」とは、数年先の未来というよりも、数十年先の未来のことであり、「現在とは異なる社会」と言い換えてもよい。そのため、人間の想像力と妄想力を必要とする。だから、現在を見つめながらも、発想を大きく跳躍(リープ)させることが大切になってくると考え、このように名付けた。大きな想像力の中に、いくつかの時間軸と異なる速度がデザインとして包含されてくるのだ。
2023年は、リープサイクルの具体的なデザインを仕掛け、国内外に発信していく“始まりの年”だと考えている。 (次回へ続く)
Profile
田中浩也(たなかひろや)
慶應義塾大学KGRI 環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター長
慶應義塾大学 環境情報学部 教授
1975年 北海道札幌市生まれのデザインエンジニア。専門分野は、デジタルファブリケーション、3D/4Dプリンティング、環境メタマテリアル。モットーは「技術と社会の両面から研究すること」。
京都大学 総合人間学部、同 人間環境学研究科にて高次元幾何学を基にした建築CADを研究し、建築事務所の現場にも参加した後、東京大学 工学系研究科 博士課程にて、画像による広域の3Dスキャンシステムを研究開発。最終的には社会基盤工学の分野にて博士(工学)を取得。2005年に慶應大学 環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同 准教授。2016年より同 教授。2010年のみマサチューセッツ工科大学 建築学科 客員研究員。
国の大型研究プロジェクトとして、文部科学省COI(2013〜2021年)「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会」では研究リーダー補佐を担当。文部科学省COI-NEXT(2021年〜)「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」では研究リーダーを務めている。
文部科学省NISTEPな研究者賞、未踏ソフトウェア天才プログラマー/スーパークリエイター賞をはじめとして、日本グッドデザイン賞など受賞多数。総務省 情報通信政策研究所「ファブ社会の展望に関する検討会」座長、総務省 情報通信政策研究所 「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」座長、経済産業省「新ものづくり検討会」委員、「新ものづくりネ ットワーク構築支援事業」委員など、政策提言にも携わっている。
東京2020オリンピック・パラリンピックでは、世界初のリサイクル3Dプリントによる表彰台制作の設計統括を務めた。
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