正極と負極を分けるだけじゃない、「セパレータ」は電池の安全性も左右する:今こそ知りたい電池のあれこれ(18)(3/3 ページ)
これまでリチウムイオン電池に使われる代表的な材料として、電池の容量を担う活物質(正極、負極)や、リチウムイオンの移動しやすさを左右する電解質について解説をしてきました。しかし、リチウムイオン電池に必要な材料はそれだけではありません。以前、熱暴走の解説をした際に少し触れた「セパレータ」もリチウムイオン電池を構成する重要な材料の1つですので、今回解説していきたいと思います。
その他にも、セパレータの性能向上に寄与する技術の事例としては「コーティング」による表面改質が挙げられます。セパレータの表面にアルミナなどのセラミック、またはポリイミドなどの耐熱性ポリマー系樹脂をコーティングし、耐熱層を形成することでメルトダウン温度や機械的強度の向上を図っています。耐熱層に使用する材料の種類によってはメルトダウン温度が300℃以上まで向上することも知られています。
また、コーティングの際に用いられるアクリルやフッ化ビニリデンなどの樹脂によって、セパレータと電極の親和性が増すことで、電池の耐久性や生産性の向上に寄与するという効果も期待されています。
以前はコーティング工程の導入による生産プロセスの煩雑化、塗工ムラやセパレータ表面からの塗膜剥離などのコーティング不良に伴うコンタミ、コーティング時の熱処理によるセパレータへのダメージなどのデメリットが指摘されることもありましたが、製造装置の改良によってそういった問題点も解決しつつあります。
そのため、特に電池の大型化が進みつつ、今後の需要拡大も見込まれる車載用途においては、セパレータコーティングによる安全性や生産性の向上が強く要求される傾向にあります。
安全性と電池性能はトレードオフ
今回は、リチウムイオン電池に用いられる材料の1つである「セパレータ」について解説しました。セパレータそのものは電気化学的に不活性であり、電池容量を担うものではありませんが、電池の安全性を左右する非常に重要な役割を果たしています。
また、今回ご紹介した「多層セパレータ」「コーティング」は、いずれもセパレータの性能向上に大きく寄与する技術でありますが、いずれもセパレータの「厚み」方向が増すものでもあり、先述の通り、トレードオフになりがちな「安全性」と「電池性能」のバランスをどのようにかじ取りしていくかというのは尽きない悩みかと思います。
これはセパレータに限った話ではありませんが、電池特性というものは何かを向上させると、別の何かが損なわれるトレードオフの関係にあることが多く、特に今回ご紹介したようなセパレータにおける「安全性」と「電池性能」の関係は、比較的イメージしやすいものではないかと思います。
電池を構成する要素は複雑かつ多岐にわたり、製造工程における何か1つの小さな変化であっても、最終的に製品として仕上がる電池の特性に大きな影響を与え得るものであり、研究開発段階から量産検討にかけて、長い時間をかけた検証や多角的な視点による評価が求められることもしばしばです。日本カーリットの受託試験部では、今後も電池評価を通して、電池技術の発展に貢献できるよう努めて参ります。
著者プロフィール
川邉裕(かわべ ゆう)
日本カーリット株式会社 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。日本カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。
「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼日本カーリット
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▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
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