マイクロLED実用化へまた一歩、東芝が赤色発光強度6倍の透明蛍光体を開発:材料技術(2/2 ページ)
東芝が、可視光下では無色透明だが紫外光を当てると強く発光する「透明蛍光体」について、溶解性を高めることで可視光下での透明度を高めるとともに、紫外光を当てたときの赤色発光強度が従来比で6倍となる新規材料を開発。ミニLED/マイクロLEDディスプレイ用の蛍光体やセキュリティ印刷、紫外光センシングなどの用途に向け2025年の量産を目指す。
赤色性能が不足するマイクロLEDのブレークスルーに
新開発の透明蛍光体の事業化は他分野での展開を想定している。まず期待が大きいのが次世代ディスプレイ技術として期待されているミニLED/マイクロLEDだろう。ミニLED/マイクロLEDでは、現在一般的に使用されている無機蛍光体では色再現能力に限界があり、発光強度が弱いことが課題になっている。また、ディスプレイ表示を行う上で必須のRGBの各画素のうち赤色性能が不足しているといわれており「今回の透明蛍光体と紫外線ベースのLEDと組み合わせれば技術のブレークスルーも可能」(岩永氏)とする。さらに、今回発表した透明蛍光体は赤色発光するが、これと並行して緑色発光するものも開発しているという。
この他、新型コロナウイルスを除菌可能なことで注目を集めている波長222nmのUV-C(深紫外光)をセンシングする用途への応用も可能である。UV-Cの最大の問題点は、人間の目に見えないため実際にUV-Cが照射されていることを確認できない点にある。新開発の透明蛍光体を使ったインクを併用すれば、通常は見えないUV-Cの見える化が可能になるという寸法だ。同じくインクによる活用例としては、紙幣やパスポートなどの偽造防止を目的としたセキュリティ印刷などが考えられる。
さらに、新開発の透明蛍光体は従来と異なる特性として、有機リン系殺虫剤であるジクロルボスと反応して、瞬時に発光しなくなる「消光」が確認されている。この特性を用いれば、食料品などへのジクロルボスの混入について、高価で手間もかかる機器分析に頼らずに簡便に検出できるようになる。1次スクリーニングとしてこの手法を用い、消光が起きた場合には詳細な機器分析を行うことを想定している。なお、現時点ではジクロルボスでのみ消光が起こり、メタミドホスなど他の有機リン系殺虫剤では起こらないという。岩永氏は「配位子を変えれば、選択制を持たせる形で対応することなども可能だろう」と述べている。
なお、今回の開発成果は、2022年12月14〜16日に福岡国際会議場で開催される「The 29th International Display Workshops(IDW'22)」の招待講演で発表する予定。併設の展示会で、新開発の透明蛍光体を使用した赤色LEDと蛍光フィルムの参考展示も行う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- すっごい滑るけど荷重を加えるとくっつく「滑る超音波透過シート」、東芝が開発
東芝がインフラなどの保守点検に用いられる超音波非破壊検査向けに超音波を通す超音波伝搬性と装置の滑らかな操作性を両立する「滑る超音波透過シート」を開発。今後、インフラ点検用ロボットをはじめさまざまな用途で社内外での活用に向けた提案を進め、2024年度末までに製品化することを目標としている。 - 省イリジウムな水電解用電極の大型化技術開発、東芝が2023年以降商用化目指す
東芝は2022年10月7日、再生可能エネルギーによる電力を基に水電解を行って水素を製造する「固体高分子型水電解」に関して、触媒となるイリジウムの使用量を10分の1に抑えた電極の大型製造技術を確立したと発表した。2023年以降での量産化を見込む。 - 人工光合成ではない「P2C」でCO2からCOを生成、東芝が工業化にめど
東芝がCO2(二酸化炭素)を燃料や化学品の原料となるCO(一酸化炭素)に電気化学変換する「Power to Chemicals(P2C)」を大規模に行う技術を開発。一般的な清掃工場が排出する年間約7万トンのCO2をCOに変換でき、CO2排出量が清掃工場の数十倍になる石炭火力発電所にも適用可能だという。 - X線シンチレーターパネルの輝度を向上する新技術を開発
東レは、蛍光体による波長変換技術を活用し、X線シンチレーターパネルの輝度を約30%向上させる新技術を開発した。同技術を医療用X線撮影装置のX線検出器に用いることで、従来品よりも明瞭な患部の観察や被ばく量の低減が可能になる。 - サンゴを育てるLED照明、京セラが紫色LEDと独自の蛍光体調合技術で商品化
京セラは2018年7月26日、新たに独自の紫色励起のLED照明技術「CERAPHIC(セラフィック)」のブランド強化を推進する他、同照明の特徴を生かし、2018年8月中旬からホビー向けアクアリウムLED照明市場に参入することを発表した。 - LED電球1個で部屋全体を照らせる? 新蛍光体が“まぶしくない”LED照明を実現
LED照明を家庭に導入した後で、従来の照明器具にはない“まぶしさ”や、部屋の壁際での暗さを感じたことはないだろうか。こういったLED照明の課題を解決できる、新たな蛍光体が開発された。