LED電球1個で部屋全体を照らせる? 新蛍光体が“まぶしくない”LED照明を実現:材料技術(1/2 ページ)
LED照明を家庭に導入した後で、従来の照明器具にはない“まぶしさ”や、部屋の壁際での暗さを感じたことはないだろうか。こういったLED照明の課題を解決できる、新たな蛍光体が開発された。
LED照明の市場が急拡大している。消費電力の小ささや寿命の長さもあって、白熱電球や蛍光灯からの置き換えが進んでいるためだ。
しかし、このLED照明を家庭に導入する際に、従来の照明器具にはない“まぶしさ”を感じたことはないだろうか。また、LED照明が照らし出す範囲が狭いために、部屋の壁際などが以前より暗くなったと感じたりはしないだろうか。
これらのLED照明の課題を克服できる新たな蛍光体を、小糸製作所と東京工業大学、名古屋大学が2012年10月17日に発表した。「Cl_MS(クルムス)蛍光体」と呼ばれる新たな蛍光体を用いた白色LEDは、点光源のように発光するためまぶしく感じる従来の白色LEDと比べて、白色光の照射範囲が広いことが特徴。拡散板などの追加部品なしに、部屋全体を明るく照らせるLED照明を実現できるという。
従来の白色LEDの課題
従来の白色LEDは、青色光を出す青色LEDチップを、青色光を黄色に変換する黄色蛍光体を混ぜ込んだ透明の樹脂材料(シリコーンなど)で覆って(蛍光体層)、封止した構造になっている。この黄色蛍光体は、イットリウム、ガドリニウム、アルミニウム、ガリウムなどの酸化物にセリウムを添加したYAG蛍光体である。
この構造の白色LEDには、大まかに分けて3つの課題がある。1つ目は、白色LEDのサイズが2〜3mm角と小さく、点光源のように発光するために、輝度が過剰に高くなることだ。先述したLED照明から感じるまぶしさや、光の照射範囲の狭さはこれに由来する現象である。拡散板などの追加部品を用いて、まぶしさの低減や照射範囲の拡大を図っている事例が多くみられるものの、白色LEDが出力する光の量が損なわれる上に、コストも増大してしまう。
左の図は、従来の白色LEDの構造。右の図は、白色光の作り出し方である。青色LEDチップから出力される青色光と、青色光を黄色蛍光体で変換した黄色光から白色光を生成している。(クリックで拡大) 出典:小糸製作所
2つ目の課題は、製造した白色LEDが同じように発光しないという、品質のばらつきである。従来の白色LEDは、青色LEDチップから出力される青色光と、青色光を黄色蛍光体で変換した黄色光から白色光を生成している。このため、青色LEDチップの青色光が、黄色蛍光体を混ぜ込んだ蛍光体層を一定の割合で透過するようにしなければならない。しかし、現時点では、透過する青色光の光の量を十分に制御できていないため、製造した白色LEDの発光の仕方にはばらつきが存在するのだ。このため、発光色を選別して、色ランクを付けるための最終工程が必須である。
3つ目は蛍光体そのもののコストである。最近は、LED照明の演色性(光が照射された対象物の見え方。太陽光を照射した場合の見え方を最高水準として比較する)を高めたり、色温度を調節したりするために、窒化物蛍光体が使用され始めている。しかし、高圧焼成処理が必要な窒化物蛍光体は高価なため、白色LEDの価格を引き上げる原因になっているという。
クルムス蛍光体を用いた白色LEDは、これらの課題を一気に解決できる可能性がある。次のページでその構造を見てみよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.