人に代わる従業員「デジタルワーカー」、実力はただの自動化にとどまらず:製造マネジメント インタビュー
Blue Prismは業務自動化に貢献する新たな戦力として、「デジタルワーカー」という概念を提唱している。最近では製造業でも活用が広まっているというが、どういう概念なのか。担当者に話を聞いた。
国内製造業は幾つもの課題に囲まれている。コロナ禍によるグローバルな経済活動の停滞や部材や原材料の入手難といった眼前の問題に加えて、就業者の減少や高齢化、それに伴う技能継承といった業界の構造的問題についても解決を目指さなければならない。
解決の糸口となるものの1つが、デジタル技術による生産現場の業務やオフィス業務の自動化、省人化だ。そして現在、SS&C Blue Prismはこうした改革を支援する存在として、「デジタルワーカー」という概念を提唱している。Blue Prism エンタープライズ営業本部 第二営業部 部長の野口喬史氏は「デジタルワーカーは製造業において、“新たな労働力”としての活躍が期待できる」と語る。
「安く、早く、容易」に導入できるデジタルワーカー
デジタルワーカーとは端的に言えば、RPA(Robotic Process Automation)などの自動化ツールにAI(人工知能)を組み合わせたり、APIを介して諸種サービスと連携したりすることで、さまざまな業務領域の柔軟かつ高度な自動化を支援するものである。これまでデジタルワーカーは、RPAやRDA(Remote Desktop Automation)と同様に、経理や人事部門といったバックオフィス系業務での適用事例が多かった。しかし、最近では生産現場の領域での適用も増えているようだ。
例えば、アナログな作業日報をExcelに入力し、加工した上で生産管理システムに転記する作業や、検査工程における外観検査のプロセスをデジタルワーカーで自動化した例がある。デジタルワーカーは組み合わせるAI次第で、さまざまなインテリジェントな機能を持たせることが可能だ。作業日報の転記作業にはAIを活用したOCRを、外観検査のプロセスには不良品を識別する画像認識AIをそれぞれ活用している。
野口氏はデジタルワーカーのメリットを、「それまでの業務プロセスを特別に変えることなくそのままで、従業員を人間からデジタルワーカーに置き換える形で導入できる点だ」と説明する。
つまり、デジタルワーカーの導入に際しては、レガシーシステムやそれまで従業員が操作していたシステム画面などを刷新する必要がない。これが大きな強みの1つとなっている。また野口氏は、「単なるマクロのように特定業務の処理を行うにとどまらず、複数のシステムにまたがったデータの自動処理も容易に構成できるのも利点だ」と語った。
こうした利点に期待が集まり、紙の過去図面や文献などをOCRを活用して整理し、検索する機能を実現した大手重工業や、特定の3D CADデータの構成品番などを変える派生図面の自動作成を行った部品メーカーなど、既に複数の導入事例があるという。加えて野口氏は、実験データや品質管理データを報告書の様式で転記、情報更新する作業を自動化した事例や、納品書や保証書の情報を生産管理システムに自動転記する事例なども紹介した。さらに最近では、グローバルの複数拠点で同一製品を生産している企業で、拠点をまたいだ生産計画や設計などを共通化するためにデジタルワーカーを活用するという動きもあるという。
当然だが、ここで紹介した事例はいずれも、デジタルワーカーを導入しなければ実現できなかったわけではない。例えば、図面の整理や検索の自動化は、専用の図面管理システムを導入すれば解決できるだろう。ただし先述の通り、デジタルワーカーは大規模なシステム刷新を必要としない。このため、専用のシステムやソフトウェアと比較して、「安く、早く、容易」(野口氏)に導入しやすいという特徴がある。
経営リソースとしての「デジタルワーカー」
野口氏はデジタルワーカーという概念について、「単なる自動化ツールではなく、文字通り『デジタルな従業員』で、しかも24時間365日、人間に依存せずに自律的に業務を遂行可能だ。デジタルワーカーは個人の業務生産性を上げるだけでなく、“組織づくり”のための経営リソースと考えてほしい」と強調する。
こうした考えの下、SS&C Blue Prismは経営層とマネジメント層、そして現場が三位一体で、デジタルワーカーを組織的に運用していくことを推奨する。現場に導入や運用を任せきりにしてしまうと、現場の細かい作業を効率化する程度にとどまってしまったり、あるいは業務が個別最適化してしまったりということで、サイロ化が進む恐れもある。どのような組織、業務変革を起こしていきたいのかを全社レベルで検討して、ガバナンスをしっかり利かせつつ、デジタルワーカーというリソースを社内でどう配分するかという視点が求められていると言えそうだ。
国内製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の動向について、野口氏は「製造現場や研究開発といった分野では少しずつ自動化への意欲が浸透していく。ここ1〜2年では自動化の対象を見極めるというところがポイントになる」と見通す。この過程で既存業務の棚卸しを行うことで、新たな業務の可視化や標準化のポイントが見えてくることもあるだろう。こうした業務をデジタルワーカーに任せていくことで、人間は、人間にしかできない業務により集中して取り組むことが可能になる。
野口氏は「無条件に全業務を自動化する必要があるとは決して考えていない。業務のサイロ化を防ぐためにもガバナンスを実現するルールや技術は必須だ。その上で、変化に迅速に適用し続け、素早く効果を享受できるデジタルワーカーを国内製造業にもっと活用していってほしい」と語った。
関連記事
- 製造業がDXを進める前に考えるべき前提条件と3つの戦略
製造業にとっても重要になる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まっている。本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介する。第1回の今回は、DXを進める中で必要になる前提条件と3つの戦略の概要について紹介する。 - DXとは何か? その本来の意味と4つの進化形態
国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第1回は、そもそもDXとは何なのかを説明する。 - 工場にもよくある無駄なPC仕事を何とかする、ブループリズムのRPA戦略
RPA大手の英国Blue Prismは2019年1月31日、日本における事業戦略を発表し、同社が推進する「Connected-RPA」というコンセプトの価値を訴えた。 - 神戸製鋼所がRPAにより本社業務効率化、20の業務で自動化領域を拡大
日本アイ・ビー・エムは神戸製鋼所に対して、RPAを活用した働き方改革支援を実施した。自動化による効果が期待できる業務を抽出し、コベルコシステムとの協業により、20業務を対象に25のソフトウェアロボットを構築した。 - 小売業の商品陳列業務の遠隔化と自動化を可能にするロボットを開発
Telexistenceは、コンビニエンスストアなど小売業での商品陳列業務の遠隔化、自動化を可能にする、半自立型遠隔操作ロボット「Model-T」を開発した。2020年夏より都内コンビニの一部店舗において、Model-Tによる商品陳列作業を実施する。 - ワークマンが扱う10万品目の発注業務を自動化、「Lumada」が衣料品販売にも対応
ワークマンと日立製作所は、両社の協創を通じてワークマンの店舗における約10万品目の発注業務を自動化する新システムを開発したと発表。これまで各店舗で1日当たり30分かかっていた発注業務を2分に短縮するとともに、新業態の「WORKMAN Plus」などで発生していた欠品による販売機会ロスを抑制する効果などを見込む。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.