【DXで勝ち抜く具体例・その4】収益機会を拡張するビジネス:DXによる製造業の進化(7)(3/3 ページ)
国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第7回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「収益機会を拡張するビジネス」の具体例として、Propeller Health、Kyoto Robotics、John Deere、LANDLOGの取り組みを紹介する。
LANDLOG――建設プロセスに関わるデータの収集と活用で生産性を高める
EARTHBRAINは、世界第2位の建設機械メーカーであるコマツが、NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所とともに設立した合弁会社です。2017年より建設生産プラットフォームの「LANDLOG」を提供しています。当時はランドログという社名でしたが、2021年に現在の名称と体制に改まりました。
コマツは、以前から建設生産プロセスをIoTで見える化し、全体の生産性を高めようとする「スマートコンストラクション」を推し進めてきました。しかし、自社の建機や車両を基盤としたソリューションであったため、その効果は限定的でした。現場では、多様な機器が活用されており、コマツの建機や車両を使ったプロセスのみを改善できても、全体での生産性は十分に高まらなかったからです。
LANDLOGは、この限界を突破するため、コマツ製以外の建機や車両などとも接続できるようにしました。そこから得られたモノのデータは、「今までの作業の結果として地形がどの程度変化したのか」「工期を短くするためにはどのような手順で進めるべきか」といったことを分析/検討できるコトのデータに加工されます。そのために必要な機能は、EARTHBRAINの株主4社だけではないLANDLOGのパートナー企業が提供します。ユーザー企業は、遠隔作業支援や施工管理システムといった建設生産プロセスに直接関わるソリューションだけではなく、燃料/間接資材の適時供給や工事保険商品の提供なども得られるというわけです。
建機を必要とする会社は、建機がほしいわけではありません。生産性を高めたいがために建機を使っているだけです。コマツは、その本質的なニーズに応えようとした結果として、LANDLOGというDXを実現するに至ったといえるでしょう。
収益機会を拡張するビジネスに求められる要件
収益機会を拡張するビジネスを展開するに当たっては、相応のシェアを有する領域をターゲットとすることが重要です。モノから得られるデータを活用するが故に、シェアが高く、より多くのデータを得られる領域であれば、競争優位性を築きやすいからです。LANDLOGのように、他社と連携することでより多くのデータを得られるようにすることも一考です。
既存事業の強化に寄与するビジネスであることも大事です。John DeereやLANDLOGはモノから得たデータを基盤に新たなビジネスを創造しましたが、そこで生み出された価値は自社の農機や建機の競争力を高める役割も果たしています。本連載の第1回に「DXの4つの進化形態」を紹介しましたが、既存事業も含めた全社の成長に資する好循環を作り上げられれば、「DX3.0:コーポレートトランスフォーメーション」の実現にもつながるはずです。
他方、既存の事業との違いが大きいほど、収益機会をより大きく拡張できます。農家のみならず、穀物商社や肥料/農薬メーカーにもデータを提供したJohn Deereのように、ユーザーの範囲を拡張することも有効です。モノを売るのではなく、サービスとして提供することでマネタイズスキームの転換を図ることも考えられます。
さて、今回は、「収益機会を拡張するビジネス」の実例として、Propeller Health、Kyoto Robotics、John Deere、LANDLOGの4つを取り上げるとともに、ビジネスモデルとして満たすべき要件を紹介しました。本連載の最終となる次回の第8回は「DXの進め方」を解説します。
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筆者プロフィール
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。
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