サプライチェーン課題解決の原点は「BOM」にあり:サプライチェーンレジリエンスに向けて(2)(2/2 ページ)
コロナ禍をはじめとする社会環境の変動により、企業のサプライチェーンにはこれまでの効率性に替わってレジリエンスが求められるようになっている。このサプライチェーンレジリエンスの解説を目的とする本連載の第2回では、サプライチェーン課題に対応する上で重要となる「BOM(材料表/部品表)」について紹介する。
3.製造BOM(M-BOM)
設計BOMで製品構成は定義されますが、それだけで製品を作ることはできません。実際に生産するためには、製造指図をかけるたびに、手配や生産に必要な副資材などの情報を生産拠点ごとに決定する必要があります。また、設計側は、主にその製品の機能単位で階層構造を持たせていますが、製造側では組み立てる単位で階層構造を持たせた方が都合がいいため、両者のBOM構成が異なることが多いです。
このような製造目線でのBOMを製造BOM(Manufacturing BOM/M-BOM)と呼びます。製造BOMにおいて、対象となる部品やモジュールを、内部で製造するか、あるいは社外の取引先から買い付ける(外製)か、いずれかを決定します。外製の部材は、発注品目として調達部門に渡されます(図4)。
製造BOMにおいては、部材以外に、最終製品に残らない副資材や、部品を製作するための素材が表現されていますが、ものを作るためには、さらに「なにを使って」「どこで」作るかという工程の情報が必要となります。製造BOMにこの情報を付加した管理情報をBOP(Bill Of Processの略)と呼び、これは後述の購買BOMに関連します。
4.購買BOM(P-BOM)
製造BOMで内外製が決定されると、手配すべき素材、外製部品が明確になります。これとBOPの工程情報を突き合わせ、購買部門が仕入れ先に発注品目と発注量を伝達します。これら発注情報を製品単位で管理するものが購買BOM(Purchase BOM、P-BOM)です(図5)。この段階では、E-BOMやM-BOMと異なり、製品内での階層構造が不要なケースもあるので、購買品のリストとして管理されることもあります。また、図に現れていませんが、仕入れ先情報や仕入れ先の品目コードなども重要な情報となります。
複数のBOMとその働きについて説明してきましたが、これにサプライチェーンの時間軸を加えることで初めて、きめの細かい購買戦略、外的要因に柔軟に対応できるサプライチェーンを設計することができます。
複数のBOMを正しく運用するためには変更管理を正確に行うことが重要です。製造側で現場での調整や、代替部品の検討および採用を行ってもM-BOM側に反映されないというケースがよくあります。結果として設計側にもその情報が伝わらないため、E-BOMとM-BOMの乖離が進み、正しい購買品発注が困難になります。
正しい運用のためには、複数のBOMが別システムで定義され、システム間の連携が人手頼りになっているという常用を脱却し、システムとして相互連携されることが望ましいです。
図6は、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンにおけるBOMの流れと、それをつかさどるシステムを表したものです。設計→生産準備の流れではE-BOMと、原形となるM-BOM、BOPはPLM(製品ライフサイクル管理)で定義されます。その後M-BOMやBOPは個々の生産拠点用に派生し、P-BOMの情報に基づいて購買品が発注され、内製工程については、ERPからMESにBOPが渡されて生産が実行されます。このような全体システムを構築することで、設計変更はもちろん、需要側の変動に対しても対応できる生産の仕組みを構築できます。
今回は、サプライチェーンの課題において製品開発分野で貢献可能な範囲について、BOMを中心に説明いたしました。次回は最終回として、より統合的な視点から具体的に、連載のテーマである「サプライチェーンレリジエンス」の実現について解説します。
筆者プロフィール
志田 穣(しだ みのる) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 エンジニアリング・R&Dリード マネジング・ディレクター
設計開発領域を核として、複数の製造業デジタルトランスフォーメーションプロジェクトを統括。アクセンチュア入社前は、原価管理ソリューション、開発における法規文書管理など多岐にわたるPLMプロジェクトを推進。また、産業IoT事業開発企画等のコンサルティング、自動車を中心とした組立系製造業にCAD/PLMツールの導入や、それをてこにした設計開発業務のプロセス改革に従事した経験がある。
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