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社会環境の大変動がもたらすサプライチェーンの課題にどのように対応すべきかサプライチェーンレジリエンスに向けて(1)(1/2 ページ)

コロナ禍をはじめとする社会環境の変動により、企業のサプライチェーンにはこれまでの効率性に替わってレジリエンスが求められるようになっている。このサプライチェーンレジリエンスの解説を目的とする本連載の第1回では、レジリエンスを重視したサプライチェーンを実現するための全体像と4つのフェーズについて紹介する。

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 この数年のコロナ禍、またウクライナ情勢など、世界規模で未曾有の混乱が生じています。とりわけ、部材の調達網(サプライチェーン)は大きな被害を受け、結果として製造業の生産に甚大な被害を及ぼしています。多くの企業にとって今回の混乱はこれまで想定していた規模以上であり、各企業のサプライチェーン責任者は、今後対策を強化したいと考えています。

 感染症の世界的流行(パンデミック)は、確率は低いものの発生するとその影響力は甚大で、標準的なリスクモデルは機能しません。ほとんどの企業が適切に対応できず、対応に苦慮することになります。また、昨今のウクライナ情勢との関わりでエネルギー資源の供給も大きく寸断されました。これまでのグローバルなサプライチェーンは効率化を最優先しているため、効率性ではなく環境への適応力の優先度を高めるといった柔軟性に乏しい側面があります。顧客の価値観や求められる商品セグメントが急速に変化する状況においては、一層の混乱が生じます。

 このように社会が大きく変化するときに、企業のサプライチェーンに求められるのはレジリエンス(resilience:強靭さ、復元力、回復力、弾力)です。本連載は、このサプライチェーンレジリエンスの解説を目的としています。第1回は、レジリエンスを重視したサプライチェーンを実現するための全体像と4つのフェーズについて紹介します。

サプライチェーン全体の混乱状態に備えるための体制構築

 サプライチェーン全体の混乱状態に備えるためには、現状の課題や想定し得るリスクへの迅速な対応だけでなく、潜在的な将来のサプライチェーン上のリスクや、社会情勢の激変に対応可能な運用を強化する必要があります。そのためには、図1で模式的に描かれているように、「立ち上げ(Mobilize)」から「感知(Sense)」「分析(Analyze)」「設定(Configure)」というフェーズをサイクルで繰り返し、実践を進めていくことが肝要です。

図1
図1 サプライチェーン上の問題に対応する計画と実践のPDCA[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

 ここからは、それぞれのフェーズにおける対応策を説明します。

1.立ち上げ

 まず状況を可視化し、サプライチェーン全体をコントロールするためのコントロールタワー(管制塔)を立ち上げます。コントロールタワーとは、トップマネジメント直下の組織で、各部門から選抜されたメンバーが司令塔として全社を統括するチームのことです。

 コントロールタワーの役割は、会社組織の目的と関係者やチームをあらためて定義し、社内の類似したケイパビリティを連携させ、組織ガバナンスを設計することです。そのために、コミュニケーションの系統を整理して現行のKPI(重要業績評価指標)の可視化レベルを評価し、意思決定を支援するダッシュボードを立ち上げます。

 このダッシュボードを使って、コントロールタワーは収集された社内外の広範なデータを参照したり、アナリティクス/機械学習駆動の例外案件を管理したり、環境の大規模変化に対応して早期に警告出したり、複雑な状況を監視します。

立ち上げフェーズの事例

 立ち上げの一例として、ある消費者向けハードウェアメーカーにおける対応をご紹介しましょう。この企業は、製造/流通施設のグローバルネットワーク内で完成品供給を調整するため、サプライチェーンに一元的コントロールタワーを導入し、製品移動のリアルタイムトラッキングを実現しました。これにより製品の供給効率全体に対する知見や洞察を獲得することができ、特別な事象に影響された顧客への対応に注力できるようになった他、コミュニケーションの自動化が可能となり、全体の効率が向上しました。

2.感知

 コントロールタワーの立ち上げ後に重要になるのは、自社固有のサプライチェーンの特徴(構成要素、製品・サービス、顧客)を把握し、リスクになり得る要素(事業、人員、地域、製品、プロセス、機能、関係者、パートナーなど)を特定することです。

 新規リスクや潜在的なリスクを特定し、自社を取り巻く環境の大規模変化とその根本原因の把握することで、将来への潜在的影響を勘案したリスクの分類を実施します。さらに、ビジネス、社会などあらゆるリスク側面を考慮しながら、材料や部品、労働力の不足、資産の休止時間、需要減、コンプライアンスなどに対応する優先順位付けを行います。

感知フェーズの事例

 一例として、ある製造業企業は、ランサムウェア攻撃による大規模なIT危機に襲われた際、ある商用サプライチェーン管理プラットフォームにIT機能を移すことで対応しました。本来このプラットフォームは、パートナー企業との共同生産、計画の統合およびデータ分析などの標準化を目的に使用されますが、この企業は、プラットフォームの機能を応用し、重要な薬剤成分の現地調達能力の確保や、生産量維持に向けた共同生産計画の調整まで実施しました。

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