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グローバルで進むインダストリー5.0、その意味とインパクトとは?インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略(2)(3/3 ページ)

インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説する。第2回は、グローバルで進むインダストリー5.0(第5次産業革命)のインパクトについて解説する。

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ニンベンのついたデジタル化、人間中心のトレンド

 以前から製品や機器、設備などのデジタルツイン化やシミュレーション活用は進んできていたが、現在では人(作業)のデジタルツイン化へ広がってきている。人間動作モデルを活用した操作性の分析、エルゴノミクスを活用した姿勢などの負担の分析をシミュレーションする取り組みが進む。ヘッドセットをかぶり、身体センサーを装着して複数人で3Dライン上にアバターとして入り製造ラインの作業の詳細を確認することもできる。製造ラインは身長や体格によって動きやすさが異なる。センシングデバイスを通じて自分の体格を再現したアバターで検証ができるため実環境に即した人が働きやすいラインの検討ができるのだ。

 日本企業においては以前から、いかに現場の人が気付き、自律的に改善をしていけるのかを意識した“ニンベンのついた自動化”である「自働化」が重要視されてきた。これら、本来の日本企業が取り組んできた強みや哲学に加え、デジタルツイン化を進める技術を組み合わせた“ニンベンのついたデジタル化”の推進が求められている。

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図9:製造業ラインのメタバース上での検証のイメージ[クリックで拡大] 出所:シーメンス

日本におけるインダストリー5.0

 先述した通り、日本では2016年から『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)』を意味するSociety 5.0を打ち出し、さまざまな活動を進めてきた。また、サステナビリティにおいては日本企業は「三方よし」の考え方をはじめ、以前から社会や環境との共生を目指すコンセプトを強く持っている。さらに、人間中心においては日本の製造現場は「人」に重きを置き、自律的な気付きを生かした改善活動に重きを置いてきた。レジリエンスの観点で見た場合でも、災害時などの自動車会社では各現場が自律的に対策を講じ圧倒的なスピードで復旧をする姿は世界に驚きをもって伝えられてきた。

 このように日本が従来培ってきたものを考えると、第5次産業革命のパラダイムシフトが起こる中で、日本は競争力や存在感を発揮するポテンシャルを抱えているといえる。しかし、グローバルで第5次産業革命の展開スピードが速まっていくことが想定される中、さらに、普及スピードや仲間作りの加速が求められているのが現在の立ち位置だと考える。

 産業ビジョンとしては「いかにグローバルでの仲間作りをしていくのか」「標準化活動をいかに行うのか」が重要となる。どれだけ優れた産業ビジョンやコンセプトを提唱していたとしても、グローバルで異なる標準が普及してしまうと、自国産業の競争力を失ってしまうからだ。先述の通り、すでに第5次産業革命においてもグローバルでの標準化に向けた連携や、グローバルでの主導権争いが行われている。ドイツは企業による海外展開とともに、連邦政府による国家レベルでのパートナーシップの推進や、州政府による他国へのプロモーション、フラウンホーファー研究所などの研究機関による技術供与や共同研究などを通じた産学官が強力に連携し、I4.0をグローバルに浸透させた。

 第5次産業革命時代において、日本が「企業の競争力以前のゲームのルール形成」時点で負けないように、Society 5.0をはじめとした第5次産業革命におけるグローバルでの仲間作りや標準化活動を積極的に行っていくことが期待される。

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図10:日本が提唱しているSociety 5.0[クリックで拡大] 出所:内閣府資料を基に筆者が作成

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筆者紹介

小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員

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 日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。

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「メタ産業革命」(日経BP)

 専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。

 近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。

  • 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp

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