大統領令で加速する米国のバイオエコノミーR&Dとデータ保護:海外医療技術トレンド(88)(3/3 ページ)
米国では、本連載第44回で取り上げたAI、第80回で取り上げたサイバーセキュリティなどのように、大統領令を起点として、省庁横断的なトップダウン型で、一気に科学技術支援策を推進しようとするケースが多々見られる。今注目を集めているのはバイオエコノミーだ。
対米海外投資の国家安全保障リスクに関する大統領令を発出
その後米国大統領行政府は、2022年9月15日、「対米外国投資委員会による国家安全保障リスクの進展に対する堅牢性の考慮の確保に関する大統領令」(関連情報)を発出している。この大統領令は、以下のような構成になっている。
- 第1条.政策
- 第2条.既存の法令ファクターに関する精緻化
- 第3条.考慮すべき追加的なファクター
- 第4条.定期的な見直し
- 第5条.定義
- 第6条.一般規定
これらのうち「第2条.既存の法令ファクターに関する精緻化」の中で、対米外国投資委員会(CFIUS)は、適切な場合、大統領令の適用対象となる取引が、製造施設、サービス、重要な鉱物資源、または国家安全保障の基盤となる技術において、防衛産業基盤の内部および外部の双方にわたるサプライチェーンのレジリエンスと安全保障に及ぼす効果を考慮すべだとしている。特に米国の国家安全保障に影響を及ぼす領域として、マイクロエレクトロニクス、AI、バイオ技術/バイオ製造、量子コンピュータ、先進的クリーンエネルギー(蓄電池、水素など)、気候適応技術、重要な素材(リチウム、レアアース希土類元素など)、食品安全保障に影響を与える農業産業基盤の要素および米国のサプライチェーンに関する大統領令第14017号(2021年2月24日付、関連情報)で指定されたその他のセクターを挙げている。
上記の領域で直接的/間接的に対米投資を行っている日本企業は、この大統領令の適用対象となる可能性があるので、早急に自社およびサプライヤー/パートナーの経済安全保障管理体制を見直す必要がある。
次に、「第3条.考慮すべき追加的なファクター」では、対米外国投資委員会に対し、米国の国家安全保障に関する適用対象取引の効果をレビューする際に、国家安全保障を損なう脅威を有する適用対象取引からもたらされるサイバーセキュリティリスクに関連したファクターを考慮すべきだとしている。
また、米国市民の機微な個人データに対するリスクに関連して、対米外国投資委員会に対し、適用対象取引に、米国の個人の機微データにアクセスする米国企業が関与しているか、外国の投資家またはその投資家と関係のある第三者が、商用またはその他の手段による利用経由など、国家安全保障を損ねるような情報を利用する能力を有しているかを考慮すべきだとしている。
このようにみると、半導体やAI、バイオテクノロジー、環境/気候変動技術などを応用した医療機器の研究開発投資を米国市場内で行う日本企業にとって、製品サプライチェーンをカバーするサイバーセキュリティ/個人情報管理体制の構築と運用は、日米間の経済安全保障に影響を及ぼす重要なテーマとなっていくことが分かるだろう。
日本では、2022年5月18日に「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」が公布され、その後同年6月から2年以内に段階的に施行される予定となっている(関連情報)。現時点で、バイオ技術/バイオ製造や、サイバーセキュリティ/個人情報管理は、政策論議の範囲に入っていないが、米国市場で製品やサービスを展開する日本企業にとっては、喫緊の課題となるだろう。サプライチェーンリスク管理上、新規事業開発の上流段階から取り組むことが望ましい。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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