USBコネクター挿入で位置決め精度0.3mm、パナソニックがロボット向けAIで新技術:人工知能ニュース(2/2 ページ)
パナソニック ホールディングス、パナソニック コネクト、立命館大学の3者は、視覚と触覚のマルチモーダル情報を使ったサブミリ(1mm以下)の精密位置決め技術「TS-NVAE」を開発した。同技術を用いて協働ロボットによるUSBコネクターの挿入作業を行ったところ、成功率100%、位置決め精度0.3mmを達成したという。
人間の指先の触覚を超える光学式触覚センサー
TS-NVAEを用いたUSBコネクター挿入作業の実験では、ソケットの位置を推定するハンドカメラに一般的な3Dセンサーを用いる一方で、プラグの把持位置を推定する触覚センサーで新たな技術を採用した。「GelSight」と呼ばれるタイプの光学式の触覚センサーであり、透明なゲルの表面に拡散反射コーティングを施し、裏面からRGB三色のLED光を照射し、ロボットの指先に物体が接触した時のゲルの変形を小型カメラで撮影する。
人間の指先の触覚による2点弁別能の精度は2mm程度といわれているが、この光学式触覚センサーを用いることで人間を超えるサブミリ精度の把持位置推定が可能になった。今後は、カメラ、プロジェクター事業を通してパナソニックグループ内で培ってきた撮像・照明光学技術を活用し、センサーのさらなる小型化と高精度化を進めていく方針だ。
TS-NVAEは学習が簡単で低く手軽に扱えるという特徴もある。一般に深層学習は訓練に必要なデータ量が非常に多く学習コストが高いといわれているが、今回のTS-NVAEを用いたUSBコネクター挿入作業の実験では、ロボットの動作時間で5分相当のデータを用いるだけで学習を完了できた。
また、ロボットのAI制御技術では、試行錯誤を繰り返すことでデータを収集する強化学習が利用されることが多い。しかし、ロボットが現場で試行錯誤でデータを集めることは安全性の観点から現実的ではない上に、学習のために数時間〜数十時間ロボットを占有してしまうという課題もある。
TS-NVAEは学習前に集中してデータ収集を行い、学習自体はロボットと切り離してサーバやクラウド上でまとめて実行するオフライン学習が可能だ。学習に必要なロボットの占有時間を数分〜数十分と短縮できるので、現場で手軽に扱えるAI制御技術としてさまざまな応用先に展開できる可能性があるとしている。
なお、TS-NVAEは、ロボット技術の国際学会「2022 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS 2022)」(2022年10月23〜27日、国立京都国際会館)のBest Application Paper Awardのファイナリストに選出されたという。
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