オーストラリアのデジタルメンタルヘルスを支えるゲーミフィケーション:海外医療技術トレンド(87)(4/4 ページ)
本連載第31回で、オーストラリアのデジタルヘルス施策を取り上げたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急対応期を経て、メンタルヘルス領域のデジタルイノベーションが活発化している。
メンタルヘルス領域のSaMD開発促進に向けた規制改革の動き
加えて、医療機器行政当局による規制改革も急ピッチで進んでいる。2022年8月17日には、オーストラリア保健・高齢者ケア省傘下の薬品・医薬品行政局(TGA)が、デジタルメンタルヘルスソフトウェアを含む医療機器ベースのソフトウェアに関する規制について公表している(関連情報)。
TGAによると、ソフトウェアは、いかなるアプリケーションやWebサイト、プログラム、インターネットベースのサービスまたはパッケージを意味しており、時計や電話、タブレット端末、ラップトップまたはその他のコンピュータや、医療機器ハードウェアに搭載されている場合がある。ソフトウェアが医療機器に該当する場合、医療機器ベースのソフトウェア(またはSaMD:Software as a Medical Device)と称される。
デジタルメンタルヘルスにおける医療機器ベースのソフトウェアについては、以下のような例を提示している。
- 治療を提供するアプリケーション
- インターネットベースのサービス
- 兆候チェッカー
- 自殺防止アプリケーション
そして、デジタルメンタルヘルスソフトウェアが医療機器の定義に該当する場合はTGAの規制下となる一方で、該当しない場合はTGAの規制対象外となる。また、2021年2月25日に施行された医療機器ベースのソフトウェアに関する規制改正を受けて、以下のような条件を全て満たす限り、メンタルヘルス面の管理を目的としたデジタルメンタルヘルスツールは、TGAの規制対象外となるとしている。
- 確立された臨床プラクティスガイドラインに従ったソフトウェア
- ガイドラインを参照しており、ツールの中に参照先が示されている
- ユーザーが明らかにガイドラインを閲覧できる
デジタルメンタルヘルスやゲーミフィケーションにおける多国間連携への期待
日本では、ゲーミフィケーションカオスマップ編集委員会が「国内ゲーミフィケーション業界カオスマップ 2022年度版」(関連情報)を公開している。マップ全体から見ると、ヘルスケア領域のプレゼンスは小さい反面、EdTechスタートアップ企業の健闘が目立つ。オーストラリアの場合、患者・消費者や健康医療・介護福祉専門職向けのトレーニング・啓発ツール開発などを契機に、ゲーミフィケーションにおけるHealthTechとEdTechの間の異業種連携が拡大していったが、日本国内でも、今後、同様の動きが起きるか注目される。
また、日豪連携については、本連載第34回でメルボルン市と大阪市のイノベーション交流を紹介したが、2022年には内閣府の「世界に伍するスタートアップ・エコシステムグローバル拠点都市」事業の一環として、オーストラリア側のMedTech Actuatorと日本側のジェトロ大阪本部、大阪商工会議所、公益財団法人大阪産業局が連携した「MedTech Actuator Origin Japan 2022」が開始されている(関連情報)。2018年当時と比較すると、両国とも、ヘルスケアにおけるゲーミフィケーションの認知度が高まるとともに、教育、スポーツ、エンタテインメントなど、医療以外の業種・業界からの参入機会も増えている。今後は、グローバル化の起点として、ゲーミフィケーションの日豪連携が期待できそうだ。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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