デジタルヘルスと高齢化の施策で互いの将来を俯瞰するオーストラリアと日本:海外医療技術トレンド(31)(1/3 ページ)
世界各国で進んでいるデジタルヘルス推進施策だが、日本と同じアジア太平洋地域も同様だ。電子カルテ普及率が9割を超えるオーストラリアは、日本の将来を俯瞰する上で参考になる。オーストラリアにとっても、今後の課題となる高齢化施策は日本の取り組みが参考になりそうだ。
前回はEUとエストニアのデジタルヘルス推進施策を取り上げたが、同様の動きは、アジア太平洋地域でも進んでいる。
保健医療ICT基盤からデジタルヘルス利活用へシフトするオーストラリア
アジア太平洋地域の中で、ニュージーランドと並び、9割以上の電子カルテ普及率を誇るオーストラリア(関連情報)では、保健医療関連ICT基盤の構築フェーズからICTから生み出される資産を利活用するフェーズへの移行期にある。それを実現するキーワードが「デジタルヘルス」だ。
オーストラリア連邦政府デジタルヘルス庁は、デジタルイノベーション、医療システムおよびサービスの提供を通じて、オーストラリアの医療アウトカムを向上させることを目的として、2016年7月に創設された保健医療行政機関である(関連情報)。
2017年8月4日、オーストラリア政府評議会(COAG)医療評議会は、デジタルヘルス庁が提案した「オーストラリア国家デジタルヘルス戦略(2018-2022)」を承認した(関連情報)。図1は、デジタルヘルス戦略のビジョン、主要テーマ、戦略的優先事項をまとめたものである。
図1 オーストラリアのデジタルヘルス戦略のビジョン、主要テーマ、戦略的優先事項(クリックで拡大) 出典:The Australian Digital Health Agency「Australia’s National Digital Health Strategy」(2017年8月4日)
この戦略では、「患者と供給者の双方にとって革新的で使いやすいツールを広範囲に提供する、シームレスで安全でセキュアなデジタルヘルスサービスと技術によって実現できる、全オーストラリア人のよりよい健康」をビジョンに設定し、以下のような戦略策定のための原則を掲げている。
- ユーザーを中心に置く
- プライバシーとセキュリティを保証する
- 俊敏な協力関係を育てる
- 安全と品質の文化を駆動する
- アクセスの公平性を改善する
- 既存の資産と能力を活用する
- 納税者の金の賢明な利用
これらの原則を前提として、以下の4つの主要テーマを掲げている。
- 適正な医療の選択を行う際に支援し、選択肢を提供する
- 自分自身を理解するためにケアする全ての人々を支援し、そして一緒に安全で個別化されたケアを提供する
- 医療供給者と自分が革新的な技術を利用して恩恵を受ける環境を創る
- 医療システムにおける自分の信頼を維持し、自分の権利を保護する
その上で、以下の7つの戦略的優先事項を掲げている。
- いつでも、どこでも必要な場合に利用できる保健医療情報
- セキュアに交換できる保健医療情報
- 確信を持って利用できる、一般に理解された意味のある高品質のデータ
- 処方箋と薬剤情報のよりよい利用可能性とアクセス
- デジタルによって可能となる、アクセシビリティや品質、安全、効率を向上させるケアのモデル
- 確信を持って、保健医療を提供するデジタルヘルス技術を利用する労働力
- ワールドクラスのイノベーションを提供する、盛んなデジタルヘルス産業
デジタルヘルス庁は、2022年までに、安全にアクセスできて、簡単に有効活用や共有ができる医療情報の必要不可欠な基礎的要素を提供することを目標としており、デジタルヘルス戦略では、図2のようなロードマップを提示している。出産前から終末期に至るまでのライフサイクルの視点に立って、現状の課題と将来のデジタルヘルスの目標を整理している点が特徴だ。
図2 オーストラリアのデジタルヘルス戦略実現にむけたロードマップ(クリックで拡大) 出典:The Australian Digital Health Agency「Australia’s National Digital Health Strategy」(2017年8月4日)
日本では、政府の「健康・医療戦略(平成29年2月17日一部変更)」(関連情報、PDFファイル)に基づき、2020年からの本格稼働に向けた医療・介護・健康分野のデジタル基盤の構築・整備作業が進行しているが、第二次世界大戦直後に生まれた第一次ベビーブーム世代の高齢化のピーク期は、オーストラリアと変わらない。
従って、2020年以降に日本国内での上市をめざすデジタルヘルス関連機器・サービス企業の開発者にとっては、現時点でのオーストラリアのデジタルヘルス基盤の「As-Is」が将来の日本の「To-Be」になり、現時点での日本の高齢化に関わる社会課題の「As-Is」が将来のオーストラリアの「To-Be」になると想定した上で、新技術領域のベストプラクティスを参照しながら、事業化モデルを検討することが近道となるかもしれない。
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