製造業も注目、モバイルネットワークの課題を解決する「マルチキャリアSIM」とは:徹底解説!IoTビジネスを進化させるマルチキャリアSIM(1)(2/2 ページ)
製造業が注目するIoTをつなぐ上で不可欠な技術になりつつあるのがモバイルネットワークだ。本連載はこのモバイルネットワークの領域で注目を集めている「マルチキャリアSIM」について解説する。第1回は、既存のモバイルネットワークサービスの課題を整理しつつ、マルチキャリアSIMに対する目下の市場ニーズを探る。
通信障害に備えるには一工夫必要
ただし、マルチキャリアSIMがあらゆるケースで万能というわけではない。最近、複数の通信キャリアで大規模な通信障害が発生したことで、通信の可用性という観点からも期待は高まっているが、そうした用途では課題がある。
マルチキャリアSIMは、基地局からの電波強度を基に接続先キャリアの自動選択や切り替えを行う。そのため、コアネットワーク側で起こった障害にSIM1枚のみで対応することは難しい。
例えば、ネットワークセンターで障害が起こって通信がしにくい状態になっても、基地局の電波強度は下がらず、またデバイス側では接続が切断されない場合も多い。一度接続が確立してしまうと、接続が完全に切れなければ次の接続を試みないため、通信しにくい状態のまま接続を維持してしまう可能性がある。そうした状況では、前述した「接続可能なキャリアの電波の中で端末が判定する電波強度が最も強いものに自動で接続する」というマルチキャリアSIMの特徴が生かされなくなる。
キャリアの通信障害にデバイス側で対応するには、複数のSIMを搭載でき、通信障害を検知してSIMを自動で切り替える機能を実装したデバイスが必要になる。これらの条件を全て備えた製品はまだまだ少ないものの、マルチキャリアSIMを含めた複数SIMを搭載し、それぞれを異なるキャリアでの通信に固定することでキャリアの冗長も実現できる。そうした手段をとる場合、複数のSIMの契約と調達から管理、運用まで一元化できるキャリアまたはサービスを選択することは、運用稼働削減に向けた大きなメリットとなるだろう。
低容量通信ならシングルキャリアより割安な場合も
マルチキャリアSIMの利用コストについては、国際ローミングを使っていることもあり、シングルキャリアSIMと比べて一般的に割高になるのは確かだ。ただし、例えばNTTPCのサービスの場合は、シングルキャリアSIMでは定額プランが基本であるのに対し、マルチキャリアSIMは従量制の課金なので、低容量のデータ通信が主な用途の場合には、マルチキャリアSIMの方が割安になるケースも少なくない。社会インフラなどの分野で、月に1回検針結果を送ればいいスマートメーターなどはこの事例にあてはまる。また、有事の際の「バックアップ回線」など、通信を利用しない待機期間が長い用途でも、複数のキャリアと個別に契約するよりもコストを抑えられる可能性がある。
こうしたマルチキャリアSIMの幅広いメリットはまだまだ世の中に十分に知られていない。現在マルチキャリアSIMに着目しているユーザーは、先進ICTに対する感度が高いユーザーというよりも、たまたま直近でIoT関連の事業を立ち上げることになり、情報収集の過程でマルチキャリアSIMを知ったという例が多い印象だ。IoTのネットワークに関する現状の課題を解決し、IoTの進化にも貢献するマルチキャリアSIMのポテンシャルについてはまだまだ啓発が必要な段階だと言えよう。
次回は、マルチキャリアSIMのより具体的なユースケースについて紹介し、その導入メリットを掘り下げてみたい。
筆者プロフィール
斉藤 暁子(さいとう あきこ) 株式会社NTTPCコミュニケーションズ サービスクリエーション本部 第二サービスクリエーション部 サービスクリエーション担当 担当課長
インターネットタイプの「InfoSphereモバイル」やセキュアなVPNモバイルの「Master'sONEモバイル」など、人向けからIoT/M2M向けまで、幅広いラインアップを提供するNTTPCの法人向けモバイルサービスを統括。
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