製造業も注目、モバイルネットワークの課題を解決する「マルチキャリアSIM」とは:徹底解説!IoTビジネスを進化させるマルチキャリアSIM(1)(1/2 ページ)
製造業が注目するIoTをつなぐ上で不可欠な技術になりつつあるのがモバイルネットワークだ。本連載はこのモバイルネットワークの領域で注目を集めている「マルチキャリアSIM」について解説する。第1回は、既存のモバイルネットワークサービスの課題を整理しつつ、マルチキャリアSIMに対する目下の市場ニーズを探る。
社会やビジネスのデジタル化は新型コロナ禍で加速し、データを活用して事業環境の変化に強いビジネスや組織づくりに取り組む企業が増えている。まさにDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが広がっているわけだが、そうした文脈で、IoT(モノのインターネット)ソリューションの存在感は一層高まっている。製造業をはじめ、さまざまな業種業界でデータドリブンな基盤づくりに貢献している。
調査会社のIDC Japanは2022年4月、国内IoT市場について、2021年のユーザー支出額実績見込み値を5兆8948億円と発表した。2021〜2026年の年間平均成長率は9.1%、2026年の市場規模は9兆1181億円に達するとも予測しており、当面は市場の伸びが続きそうだ。そして、この市場予測において支出額が多いのが組立製造やプロセス製造といった製造業のモノづくり分野である。
製造業の支出額が大きい理由として、国内GDPに占める製造業の割合が大きいことや、製造業向けの政府の支援施策が目立つことに加え、生産プロセスのスループット向上、最終製品の品質レベルの監視、生産に関係するリソースの最適化、エネルギーコストの削減、事業の持続可能性目標の達成、コンプライアンスへの柔軟な対応、生産設備のリモート診断/予知保全、障害発生時の原因究明といった幅広い用途で活用が進んでいることが関係しています。
――IDC Japan2022年4月4日発表「国内IoT市場の産業分野別/テクノロジー別市場予測を発表」より抜粋
また、製造業にとってIoTのニーズは組立製造やプロセス製造といったモノづくりのプロセスだけにとどまらない。社会インフラやスマートホームをはじめとするIoTを活用するユースケースに対して、IoTデバイスとともに関連サービスを提供することで「モノ売り」から「コト売り」への移行も志向しているからだ。
このように製造業をはじめIoTの裾野が継続的に拡大している背景として、エッジデバイスやクラウドコンピューティング、データ分析/活用を担う技術などの進化と利用コストの低廉化は大きな要素だが、もう1つ重要なポイントとしてネットワーク技術/サービスの発達がある。特にインターネットへの接続において「場所」の制約を乗り越え、従来とは比較にならないほど多様なデバイスからのデータ収集を可能にしたモバイルネットワークは、もはやIoTに不可欠な技術だといえる。
近年、このモバイルネットワークの領域で注目を集めているのが「マルチキャリアSIM」を使った通信サービスだ。そこで本連載では、マルチキャリアSIMがIoTの進化に与える影響を網羅的に解説する。第1回の今回は、既存のモバイルネットワークサービスの課題を整理しつつ、マルチキャリアSIMに対する目下の市場ニーズを探る。
「シングルキャリアSIM」と「マルチキャリアSIM」の違い
従来、日本国内のモバイルネットワークであれば、自前のインフラを持つMNO(移動体通信事業者)であるNTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、そしてそれぞれのMVNO(仮想移動体通信事業者)など、通信キャリアごとにSIMを用意する「シングルキャリアSIM」で利用するが一般的だった。これに対してマルチキャリアSIMとは、1枚のSIMで文字通り複数のキャリアのモバイルネットワークに接続できるサービスを指す。
マルチキャリアSIMは国際ローミングを利用してサービスを構築しているケースが多く、国内でモバイルネットワークを利用する際のマルチキャリア化を実現するだけでなく、海外でのモバイルネットワーク利用も含めて、一括での契約手続きや一元的な管理/運用が可能になる。接続可能なキャリアの電波の中でデバイスが判定する電波強度が最も強いものに自動で接続するため、通信プロファイルの設定を変更する必要もなく、キャリアごとに複数のSIMを用意してマルチキャリアを実現する方式と比べて調達や設定の負荷もかなり低いといえる。現在、国内でもNTTPCコミュニケーションズ(NTTPC)やソニーネットワークコミュニケーションズスマートプラットフォームなど複数のベンダーがこうしたサービスを提供している。
国内でもグローバルでも需要が拡大
ユーザー側の視点では、現状、マルチキャリアSIMへの期待は大まかに分けて2つに集約されるだろう。
1つは、国内利用におけるエリアカバレッジをできるだけ広げたいというニーズだ。IoTデバイスを山間地などに設置する場合、まだまだ全ての通信キャリアの電波が均等に届く状況にはないというのが実情だ。デバイスを設置する際に、どのキャリアのモバイルネットワークが適しているのかあらかじめ調査できるケースばかりとも限らないし、デバイスの設置箇所が全国に点在していたり、デバイスの数が多くなったりすると、そうした対応はより難しくなる。
その点、マルチキャリアSIMであれば、まとめて調達してとにかく設置してしまい、現地の環境に応じてキャリアを柔軟に使い分け、かつ管理は一元化できる。これはシングルキャリアSIMでは得られないメリットといえる。
もう1つは、IoTの仕組みをグローバルに展開したい企業が、モバイルネットワークの利用において、調達や管理、運用を一元化しつつ国内と海外で同等のセキュリティを担保したいというニーズだ。世界各地の拠点にIoTデバイスを配置する場合、従来であれば現地キャリアのSIMを調達してモバイルネットワークを利用する環境を整えるのが一般的だった。しかしこれでは調達、設定から管理、運用まで負荷がかかり過ぎると感じている企業も多い。
マルチキャリアSIMを活用すれば、設置する国や地域を問わずSIMを一括で調達できるだけでなく、日本でキッティングや検証をしてからデバイスと一緒に海外に送り、後は現地で設置するだけ、といったやり方も可能になる。また、マルチキャリアSIMにはオープンなインターネットだけでなく国内外問わずVPN(仮想プライベートネットワーク)を利用できるサービスもある。例えば、NTTPCの「Master'sONEモバイル マルチキャリアタイプ」では、1回線からVPNを利用可能である。そうしたサービスを利用すれば、グローバル通信で安全性を確保することも容易だ。
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