リュウグウより小さい直径わずか30mの小惑星へのタッチダウンは可能か?〜拡張ミッション【後編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(21)(4/4 ページ)
2012年5月から始まった小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトを追う本連載も今回で最終回。大成功となった小惑星「リュウグウ」からのサンプルリターンに続く「拡張ミッション」解説の後編として、2026年7月予定の小惑星「2001 CC21」のフライバイ観測、2031年7月予定の小惑星「1998 KY26」のランデブー観測について解説する。
新たなタッチダウン方式を実証
そこで考えられているのが、自然地形を認識して追尾する機能を追加することだ。JAXAは小型月着陸実証機「SLIM」で、クレーターの画像認識によって自己位置を推定する技術を開発している。1998 KY26でもこれを活用できる可能性があり、三桝氏は「JAXA内部で協力していきたい」と期待する。
地球から離れており、遠隔制御だと間に合わないため、これらは全て探査機の自律機能として組み込む必要がある。最新のCPU/GPUに比べると、探査機の計算能力はかなり限られるものの、はやぶさ2の姿勢軌道制御系(AOCS)は、地上からソフトウェアを書き換えられる設計になっており、機能の追加は可能だ。
表面がすべすべの一枚岩だったりして、目印になりそうな地形が何もない可能性もあるが、そのときは、まだ1発残っている弾丸を地表に発射して、目印を新たに作ってもいいかもしれない。まるで「インパクタ(衝突装置)」のような使い方とも言え、できたクレーターを観測することで、科学的成果も期待できる。
ターゲットマーカーという人工物を目印にする方法は強力だったため、これまでは脱却する必要性が無かった。しかし今後、1998 KY26のように使えないケースが出てくる可能性もあり、この拡張ミッションで事前に検証できるという意義は非常に大きいだろう。
ところで、「ターゲットマーカーを地表に置けない」と書いたものの、じつは“裏技”が1つある。北極や南極など自転軸に近いところだと、遠心力が弱く、重力が勝るのだ。こういった領域に投下し、バウンドする様子を観測することで、表面の状態を推定することも考えているそうだ。
到着まではまだ9年もあり、1998 KY26での探査計画は議論が始まったばかりだという。ただ、4年後にはフライバイ観測も控えており、「退屈する暇もない」と三桝氏は笑う。このランデブー探査の内容が固まってくるのはフライバイ後になるだろうが、今後も注目していきたいところだ。
最後に
本連載は2012年5月に開始。はやぶさ2の話題がまだ少なかった時期で、プロジェクトを盛り上げようと、短期集中で打ち上げ前に終わらせるつもりで始めた企画だったのだが、筆者の仕事が遅れに遅れ、ここまで引っ張ることになってしまった。しかし、そのおかげで拡張ミッションまでまとめることができたので、それはそれで良かったかもしれない。
プロジェクトが解散し、話題としても一区切りついたと思うので、本連載は今回をもってひとまず最終回としたい。ただ、4年後のフライバイ、9年後のランデブーで、場合によっては追加する可能性もあるかもしれない。ちょっと中途半端な終わらせ方で申し訳ないが、そのときまで覚えておいてもらえれば幸いである。
(連載ひとまず完)
筆者プロフィール
大塚 実(おおつか みのる)
PC、ロボット、宇宙開発、VR/メタバースなど技術系の分野を幅広く執筆しているテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。三度の飯よりプログラミングが好きな体質のため、隙あらばエンジニア仕事も引き受けている。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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