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【DXで勝ち抜く具体例・その1】場を創造するビジネスDXによる製造業の進化(4)(3/3 ページ)

国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第4回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「場を創造するビジネス」の具体例として、PatientsLikeMe、OpenDesk、Seibii、Manbangの取り組みを紹介する。

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※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Manbang――マッチング料がタダでももうかる運送マッチングサービス

 Manbang(満バン:バンの漢字は上側が邦、下側が巾)は、トラックを必要とする荷主と運送事業者をデジタルマッチングする「バーチャルな場」を創造した中国のスタートアップです。2017年に業界第1位のHuochebang(貨車バン)と、同第2位のYunmanman(運満満)が合併したことで誕生しました。中国のトラックの80%超をカバーする事業者登録を得るなど、圧倒的なシェアを有しています。

 マッチングの仕組みはとてもシンプルです。荷主は、発地や着地、必要とするトラックの種類や大きさ、荷物の種別や重量などを登録します。運送事業者は、その情報がリストアップされたページを見て、請け負いたい仕事を選べばよいだけです。

 逆のパターンもあります。先に運送事業者がトラックの種類や大きさ、現在地や移動予定先などを登録します。荷主は、そのリストを見て、発注したい運送事業者を選ぶという手順です。

 荷主は、運送事業者に対する評価や実績を確認できます。それ故、運送事業者は荷主からの評価を高めるべく、より丁寧に荷物を扱ったり、指定された時間に到着したりするようになります。これにより、トラック運送の品質向上にも寄与するというわけです。

 実をいうと、Manbangは無料でマッチングサービスを提供しています。なぜなら、事業者登録を増やすための手段にすぎないからです。Manbangの収益基盤は、パートナー企業との提携の下、運送事業者に自動車保険を販売したり、トラックの買い替えを仲介したりする時に得られる手数料収入にあります。Manbangであれば、実績や荷主からの評価などをデータ化できているため、高業績、高品質の運送事業者に対して、より低料率の自動車保険、より低金利のオートローンを提供できます。この価格競争力を武器としたファイナンスサービスで高収益を得ているのです。マッチングのデータをマネタイズの源泉とすることに成功した例といってよいでしょう。

Manbangのビジネスモデル
Manbangのビジネスモデル[クリックで拡大]

場を創造するビジネスに求められる要件

 場を創造するビジネスとは、モノやサービスを提供/共有可能な「場」を構築し、利用を得ることで収益を獲得する事業です。故に、その「場」を介してモノやサービスを提供したいユーザーと、利用したいユーザーの双方のバランスが取れないと、ビジネスとして成立しません。提供と利用の双方に十分なニーズのあるビジネスであることが肝要です。

 場を創造するビジネスの展開に当たっては、他社にはない「何か」を有していることも大事です。二番煎じでは勝てないからです。とはいえ、多くのユーザーは特定の「場」だけを使っているわけではありません。目的や状況に応じてさまざまな「場」が使い分けられる中で、その対象に選ばれるだけの特徴を備えていることがポイントになります。

 場を創造するビジネスの最大の価値は、モノやサービスの提供/共有が可能な仕組みを提供することにあります。従って、最もオーソドックスなマネタイズの方法は、モノやサービスの提供者や利用者から「場」の使用に応じた対価を得ることです。しかし、収益を拡大するために対価を上げることと、ユーザー数を増やすことは相反します。Manbangように、マッチングという「場」を使用することの対価をユーザーから得ずとも、その過程で得られたデータを活用することで収益を獲得できれば、このジレンマを脱することができます。ビジネスモデルの検討に当たっては、「場」を提供すること以外での価値創出の可能性を探究することが枢要です。



 さて、今回は、「場を創造するビジネス」の実例として、PatientsLikeMe、OpenDesk、Seibii、Manbangの4社を取り上げるとともに、ビジネスモデルとして満たすべき要件を解説しました。次回の第5回は「非効率を解消するビジネス」の具体例を紹介します。

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筆者プロフィール

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小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。

株式会社ローランド・ベルガーhttps://rolandberger.tokyo/

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