三菱重工は円安効果及ばず減益に、石炭火力の欧州拠点縮小でも費用かさむ:製造マネジメントニュース
三菱重工業(以下、三菱重工)は2022年8月5日、2023年3月期(2022年度)第1四半期の連結業績を発表した。受注高が好調な事業もあったが、原材料や燃料費の高騰やサプライチェーンの混乱に加え、円安影響によって、事業利益は前年同期比で減益となった。
三菱重工業(以下、三菱重工)は2022年8月5日、2023年3月期(2022年度)第1四半期の連結業績を発表した。受注高が好調な事業もあったが、原材料や燃料費の高騰やサプライチェーンの混乱に加え、円安影響によって、事業利益は前年同期比で減益となった。
事業利益は前年同期比30.4%減
三菱重工の2022年度第1四半期の業績は、受注高が前年同期比22.3%増の9178億円、売り上げ収益が同2.3%増の3713億円、事業利益が同30.4%減の149億円、当期利益が同51.7%増の191億円だった。
セグメント別に見ると、「エナジー」「プラント・インフラ」「物流・冷熱・ドライブシステム」「航空・防衛・宇宙」の全てで受注高自体は前年同期比で増加したものの、事業利益は航空・防衛・宇宙セグメント以外、同減となった。
エナジーセグメントでは特に石炭火力事業において、前年同期にあった好採算工事の進捗の反動と、欧州拠点の縮小に伴う事業構造改善の一時費用を計上したことが事業利益を押し下げた。一方で、航空エンジン事業などは市況回復に伴う受注増加傾向が見られており、2022年度第2四半期以降の回復を見込む。
プラント・インフラセグメントでは鉄鋼メーカーの設備投資意欲がグローバルで高まったことで前年同期の受注高を上回ったものの、為替相場が影響して事業利益を押し下げた。三菱重工 取締役常務執行役員 CFOの小澤壽人氏は「当社にとって、基本的に円安傾向は増益要因になるが、会計処理のテクニカルな要因で減益要因となった」と説明する。
物流・冷熱・ドライブシステムセグメントでは、材料費や輸送費の高騰が影響して減益につながった。航空・防衛・宇宙セグメントではボーイング向けの航空機出荷機数が減少して戻らない状況が続くものの、固定費抑制と為替相場の影響で事業利益自体は前年同期比で増加した。
2022年度事業見通しについては、2022年5月発表時点から変更せず据え置きとした。
石炭火力事業の欧州拠点人員を4分の1に
2022年度第1四半期における事業利益の増減要因について、小澤氏は「中量産品や航空エンジンが増益効果を生んだが、材料費や輸送費の高騰、サプライチェーン混乱による生産調整で減益効果もあった。火力事業ではカーボンニュートラル実現に向けた流れの中で市場規模が縮小しつつあるため、構造改革を進めている。このため欧州拠点の縮小を行い、減益効果が生まれた」と説明した。
なお、欧州拠点の縮小は着手し始めた段階で、今後1〜2年間で約4分の1程度の人員規模に削減する計画とした。残りの人員でエナジートランジション関係のプロジェクトに取り組むことも検討する。
為替影響については、エナジーセグメントではGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント)事業、プラントインフラセグメントではエンジニアリング事業において大きく出たという。円安が事業利益を押し下げた理由について小澤氏は、「(現在の為替によって)総原価の予想値が増してしまい、業績進捗率が低下して見える現象が生じ得る。年間を通して見れば、会計上の影響は薄まっていくと思われる。毎年起こっている事象ではあるのだが、3カ月で急激に円安が進み、影響が大きく出た」と語った。
また、航空・防衛・宇宙セグメントでボーイング向けの航空機出荷機数が厳しい状況が続いていることについて、小澤氏は「2022年度第1四半期はそれなりの出荷機数があったものの、それ以降は厳しい状況が続いている。ボーイング787については今後、出荷機数が回復していくものと見込んでいるが、当初想定していた目標値に到達するのが精いっぱいと見ている」と語った。
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