電子実験ノートでR&Dを効率化、非開発業務の工数削減を果たした日華化学:3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022
ダッソー・システムズは2022年7月6〜26日にかけて、年次カンファレンス「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022」をオンラインで開催した。本稿では日華化学 化学品部門 界面科学研究所 副所長 兼 研究開発推進部長の齋藤嘉孝氏による講演「データ駆動型R&Dに向けた第一歩/電子実験ノートの導入」の内容を紹介する。
ダッソー・システムズは2022年7月6〜26日にかけて、年次カンファレンス「3DEXPERIENCE CONFERENCE JAPAN 2022」をオンラインで開催した。本稿では同カンファレンスに登壇した、日華化学 化学品部門 界面科学研究所 副所長 兼 研究開発推進部長の齋藤嘉孝氏による講演「データ駆動型R&Dに向けた第一歩/電子実験ノートの導入」の内容を紹介する。
電子実験ノートは「導入しない方がリスク高い」
日華化学は現在、全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指して、社内における製造や営業、研究開発(R&D)、情報管理などの領域で取り組みを進めている。電子実験ノート「BIOVIA Notebook」の導入もこうしたプロジェクトの一環で、同社の掲げる「データ駆動型R&D構想」に基づき、データ基盤整備を目指して行われたものである。
データ駆動型R&D構想を通じて日華化学は、R&Dにおけるアイデア創発から開発テーマの起案や選定、開発活動、上市までの一連のサイクルにおいて、社内外のデータ連結による各フェーズでの迅速かつ高品質なアウトプット創出を目指している。必要となるデータ基盤、データ解析、データサイエンティストなどの人材育成ツール、システムは2023年までにおおむね整備する計画だ。
電子実験ノートの導入はR&Dデータの紛失や記録漏れ、改ざんなどの防止による、コンプライアンス強化につながる。また、実験装置から出力されたデジタルデータの活用といった実験情報のデジタル化、実験結果の情報一元化と検索性向上、レポーティング対応時間の削減による業務負荷低減といった効果が期待できる。齋藤氏は「電子実験ノートは早期に導入すべきツールだと判断した。(世界のトレンドを鑑みれば)むしろ、導入しないリスクの方が高い」と説明した。
非開発業務の工数を30%以下に
日華化学はBIOVIA Notebookの導入に先立って、同社研究員にアンケート調査を実施した。その結果、研究員の多くがアナログな研究環境に課題を感じており、電子実験ノート導入にも前向きな姿勢を見せている様子が伺えた。実際に工数解析を行ったところ、当時は非開発業務に多くの時間を費やし、本来取り組むべき開発業務に53%しか時間を割けていない状況が判明したという。
BIOVIA Notebookの導入成果として、R&D活動に占める非開発業務の割合を、工数全体の30%以下になるまで削減できた。また開発スピードの向上と効率化によって、アイデア創出に関わる活動に取り組むことも可能になった。今後は、新製品開発数や研究員一人当たりの生産性、特許出願数、開発テーマのアイデア創出件数などをKPI(重要業績評価指標)として、導入効果を測定する計画だ。
また、BIOVIA Notebookの導入前には、ツールの定着化を図るミニプロジェクトを発足し、日華化学の各研究グループから選定されたコアメンバー数人を対象に、ツールの使い方などに関するトレーニングを実施した。実験ノートのテンプレート作成や、その運用に関するディスカッションなどの過程では、ダッソー・システムズが必要なサポートを提供している。
BIOVIA Notebookの選定理由としては、「化学企業全般に適合している」「画面構成が分かりやすい」「ダッソー・システムズによる導入・活用体制が整備されている」の3点が主要なものとして挙げられるという。「電子実験ノートは製薬会社での活用をイメージした製品が多いが、BIOVIA Notebookは化学品などを扱う当社でも使いやすそうな印象があった。また、『Microsoft Office』シリーズを思わせる画面構成で使い勝手が良かった」(齋藤氏)。
BIOVIA Notebookの導入は電子実験ノートの導入検討開始から約1年間で完了した。齋藤氏は今後の課題として、「電子実験ノートの完全な定着化に向けてはまだ道半ばという認識だ。定期的な現場モニタリングや、ダッソー・システムズのサポートを受けながら一層の定着化を図る。また、国内拠点の導入効果を見つつ、海外拠点への展開も検討する」と語った。
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