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進まない研究のデジタル化、オリンパスはワークフローにフォーカスする研究開発の最前線(1/2 ページ)

さまざまな産業でデジタル化の推進が求められている中、最も進展が遅いと指摘されることも多いのが「研究」である。科学機器大手のオリンパスが2021年10月に提供を開始したクラウドサービスの「OLSC」は、ライフサイエンス研究を行う大学や研究所における研究者のワークフローの支援にフォーカスすることで課題解決を目指している。

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 さまざまな産業でデジタル化の推進が求められている中、最も進展が遅いと指摘されることも多いのが「研究」である。特に、化学や生物など、実験と測定を繰り返す必要がある分野の研究は、実験の経緯や結果の記録方法、分析機器を用いた測定データの管理方法などが研究者ごとに異なることもあり、これらのさまざまな研究結果の検索性が低く、データとして活用しきれないことが課題になっている。

 この課題を解決するべく、光学顕微鏡をはじめとする科学機器大手のオリンパスが2021年10月に提供を開始したのが、クラウドサービスの「OLSC(Olympus Life Science Solution Cloud:オリンパスライフサイエンスソリューションクラウド)」である。ライフサイエンス研究を行う大学や研究所における研究者のワークフローの支援にフォーカスし、分析機器から取得した研究データや実験条件、研究の過程で議論したチャットの履歴など、研究に関する膨大なデータを一元して管理することができる。

 OLSCでは、研究者が実験の経緯や結果を記録する実験ノートに当たる「Note」と、科学機器による測定データをクラウドに保存する。測定データがクラウドにあることで検索が容易になり、Note上における実験内容と測定データのひも付けも簡単に行えるようになる。また、教授や主任といった各研究者の研究内容を管理する側にとっても、クラウド上にあるNoteを見るだけで研究の進捗をすぐに確認できる点がメリットになる。

「OLSC」の利用イメージ
「OLSC」の利用イメージ[クリックで拡大] 出所:オリンパス

効率的に研究を行い、アイデアを素早く出すために何が必要か

 OLSCの特徴は大まかに分けて3つある。1つ目は、研究データの自動アップロードと研究単位ごとのデータ一元管理である。対応機器から取得した研究データは、サンプルの状態や撮影条件などの実験条件も含めてデバイスから自動的にクラウド上へアップロードされる。また、研究データと関連する考察や実験の条件、参考資料は研究単位ごとに一元管理できる。研究の過程で根拠となる研究データの詳細を把握したいときなど、データを探す手間なく参照でき、研究効率の向上につなげられる。

 発表段階でOLSCに対応する機器は、オリンパスの共焦点レーザー走査型顕微鏡「FV3000」とインキュベーションモニタリングシステム「CM20」の2機種だけだが、今後は可能な限り拡大させていきたい考えだ。オリンパス 光学システム開発 先進光学技術開発 技術1の高橋晋太郎氏は「オリンパスの機器については、ネットワークとつなげられないなどのハードウェア的な制限がない限り、順次対応を広げていく。他社機器についても、業界で汎用的に用いられているオープンソースソフトウェアを活用するなどして連携できるようにしていく。研究に用いられる機器に、いわゆるつながる機能が求められるのは時代の大勢だ。当社はコンソーシアム組織で数社と活動している背景もあり、より深い連携に向けた話し合いができる環境もある。ソリューション提供を互いにどうやって行くのかが鍵になるだろう」と語る。

 2つ目は、実験条件などの目的に応じた検索による過去の研究記録の有効活用だ。OLSCのクラウド上に蓄積された過去の研究記録は、サンプルや使用した機器、ユーザーが任意で設定したタグなどの情報を基に検索できるので、目的に応じた適切な情報の確認を容易に行える。

 従来、研究データは研究者ごとに個別管理することが多く、本人でないとどこにデータを保存したか分からないといった問題があった。これをOLSCのクラウドに保存するというワークフローに変えることで、自身の研究データだけでなくチームメンバーの研究データも参照できるようになる。これにより、類似した実験データの再利用や、新たな実験の条件設定を行う際の参考にできるなど、過去の研究記録の有効活用が可能になるというわけだ。

「Note」にクラウド上の研究データをひも付けることができる
「Note」にクラウド上の研究データをひも付けることができる。Note上の画像を選択すると、元なる研究データにリンクする[クリックで拡大] 出所:オリンパス

 そして3つ目が、検討の過程を見える化するチャット機能である。Noteには、確認依頼やフィードバックのコメントなど議論した内容を資料と関連付けて記録できるチャット機能が搭載されており、これによりチームメンバーとの検討の過程を見える化でき、効率的に課題の方向付けや議論を行えるようになる。従来、研究に関する議論は打ち合わせベースで行われることが多く、その内容が研究データとデジタルにひも付けて記録されてこなかった。OLSCのチャット機能を使えば、打ち合わせで出た議論の内容を記録したり、資料を関連付けたりすることが容易に行えるようになる。

「Note」とチャット機能の表示画面のイメージ
「Note」とチャット機能の表示画面のイメージ[クリックで拡大] 出所:オリンパス

 また、このチャット機能は、インターネットにアクセス可能な環境があれば、時間や場所を問わずさまざまなデバイスから利用できる。これにより、同じ場所に集まって打ち合わせを行わなくても、他施設間での情報共有や在宅ワークなどさまざまな環境下で研究者間でのコミュニケーションを行える。

 オリンパス 科学事業 ストラテジー ライフサイエンスリサーチ市場領域 LSデジタルソリューション、グローバルの井元兼太郎氏は「研究の競争力を高めるためには、効率的に研究を行い、アイデアを素早く出すことが重要だ。実際に、研究者へのヒアリングをはじめとする調査から、データの一元管理による研究効率の向上、過去の実験データの活用、重要データや議論の見える化が求められていることが分かった。OLSCは、これらの要求を満たすソリューションになっている」と説明する。

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