パナソニック新CIOが目指すPXとは、情シス部門を歴史と伝統の呪縛から解き放つ:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)が、同社グループで推進しているDXプロジェクト「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」について説明。同社 グループCIOの玉置肇氏は情報システム部門における「歴史と伝統の呪縛」について指摘するとともに「まずは情報システム部門の社員を幸せにする」と述べた。
部門使命を刷新、子会社のPISCも変革する
玉置氏はグループCIOの就任に合わせて、PXをスタートするとともに、情報システム部門の部門使命も刷新した。1995年に策定されたこれまでの部門使命は幾分硬質な作りとなっており、玉置氏が指摘する“内向きの重力”である組織重力から解放するために、PXの前に情報システム部門は何をすべきかを定義した。「それも上から定義するのではなく、ブログを通じていろんな声を集めた。そして新たに、ミッション、ビジョン、バリューを決めた」(玉置氏)。
さらに玉置氏は、パナソニックの情報システム部門を語る上で避けて通れない、情報システム子会社であるPISCの沿革について説明した。同氏はPISCの社長も兼任しているが「PISCにしっかり手を入れなければパナソニックの情報システム部門は輝きを取り戻せない。だからこそPISCの社長も引き受けた」という。
PISCは、旧松下電工の情報システム子会社として発足し、2004〜2015年まで株式上場していた時期もある。2015年に、このPISCと合流したのがパナソニックの情報システム部門であるCISCである。さらにCISCでは、PISCと合流する前に、IBMや富士通への外部業務委託のため約1000人もの人材を外部に完全転籍させたという歴史もある。「現在もこの影響は非常に大きい」(玉置氏)。
このような経緯を経てできた現在のPISCは、組織重力が内からだけでなく事業会社などの外からも働き、多くのサイロ、縄張りが発生してしまう。この状況を打破し、PISCの社員を幸せにすることも玉置氏の使命になる。
現在の「PX1.0」から「PX2.0」へ移行
玉置氏は会見の後半で、「ITの変革」「オペレーティング・モデルの変革」「カルチャーの変革」という3階層のフレームワークで推進するPXについてかいつまんで説明した。
「ITの変革」については、2022〜2024年度の3年間で1240億円をかけて進めていくが、「たとえITを変革しても3年で陳腐化する上に、土台となる組織から変えなければ元に戻ってしまう。そのためには、下の2層も同時に進めていかなければならない」(玉置氏)とした。
ITの運用と言う観点では、情報システム部門の2700人だけでなく、協力会社も含めた約9000人が関わるサプライチェーンが存在している。「オペレーティング・モデルの変革」では、この大きくて複雑なITのサプライチェーンを変えて行く。そして「ITの良しあしは人で決まる」(玉置氏)として、進めなければならないと考えているのが「カルチャーの変革」である。
「ITの変革」では、約1200システムあるグループ内のレガシーシステムのモダナイゼーションを進める。玉置氏は「把握できてないものを含めれば2000システムはあると見ている。中村社長時代に作られたものを含めて、20年選手30年選手が多数いる。香港の九龍城のように、現行のプロセスを変えることなく追加の商流や商材、要件を全て実装してしまい、システムがどんどん大きくなってしまう。プロセスを変えて簡素化し、システムを置き換えていく必要がある」と語る。
クラウド活用についても、本社のある大阪府門真市のデータセンターも活用しつつ、メガプラットフォーマーのパブリッククラウドも組み合わせ、ベストハイブリッドなプラットフォームを構築していく。SCM最適化では、パナソニック コネクト傘下のブルーヨンダー(Blue Yonder)のソリューションを活用することになるが、そのためにもマスターデータの標準化が必要になるとした。「レッツノートの事業部で先行導入したが、SCM最適化に1年8カ月〜2年ほどかかかった。今後この取り組みを全社に広げていく」(玉置氏)という。
これらの取り組みを進めるPXだが、現在進行しているのは基礎固めとなる「PX1.0」に当たる。本当に目指すべきは、ビジネスモデルを変え、業務・サービス・商品・流通・取引先との仕事のやり方などを真の意味で変革する「PX2.0」である。例えば、ブルーヨンダーによるSCM最適化がPX2.0に当たる。玉置氏は「2024年の後半には、かなりの割合でPX2.0に移行しているようにしたい」と述べている。
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